中巻は,幕府直属校の教授職を辞めて長州へ戻るところから,軍事司令官として長州征伐の幕軍を撃退させるところまで.もともと医者でオランダ語ができることから軍事書の翻訳をやるようになり,流れ流れて長州の軍事司令官になっていく転進ぶりは読んでいて楽しい.また,桂小五郎に見いだされなかったら幕軍側の司令官になっていたかもしれないことを考えると幕末時代のちょっとしたタイミングや機微が浮き彫りにされていて面白い.上巻同様興味深いのは,彼の技術者としての応用力.馬には乗れないし剣術も全くダメで,銃や大砲の使い方にも詳しくないのに,軍略も軍事戦略も現実的に練り上げ,それがハズレなかったのは驚き.その背景にあった周到な調査と鋭い観察眼には圧倒される.
話の本筋から外れた歴史背景の話題もたくさん散りばめられていてそれが相変わらず面白い.流れ弾に当たらないように地面に這いながら小銃を撃つ(今では当たり前の)発砲スタイルが当時は奇妙に映ったとか,村田蔵六の思考と福沢諭吉の思考の違い,桂小五郎の人となりを深く掘り下げているところなどが印象的.