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花神 (下巻) (新潮文庫)

価格: ¥830
カテゴリ: 文庫
ブランド: 新潮社
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司馬さん、楽しかったろうな。 ★★★★☆
長い話である。

言わずも知れたNHK大河ドラマの原作だが、ただ大河はこの作品に加え、吉田松陰の「世に棲む日々」や河井継之助の「峠」などを加えてドラマ化してある。「花神」も「世にー」も決して短くない作品だが、ストーリー部分よりもいわゆる「余談だが…」の部分が(とくに花神では)多い為、村田蔵六の生涯では大河の1年間が心もとなかったのだろう。つまり全体では長州藩(のち明治新政府)の軍師、大村益次郎の生涯をなぞりつつも、”余話として”例えば幕末の蘭学史(医学史ともいえる)や、思想史としての攘夷論、また長州藩激動史など他にも目いっぱいが、エッセイとして、または論説文として盛り込まれている。ほんとに枚数にすれば全体のほぼ半分がそれに該当しているかもしれない。だから、世に出た大村益次郎の伝記を読みたければ、同じ作者の短編「鬼謀の人」でじゅうぶんこと足るのだ。

しかしこの余談部分が意外に面白い。とくに幕末から維新の激動史の中でいろんな発見をした。
まず武家時代最後の帝、孝明帝が実は佐幕派であった事はまったく意外だった。また新政府軍(官軍)は薩長を中心とした寄り合い所帯で、その二藩以外はあまりやる気がなく、いつでも翻意転向するつもりであったことなど、まったく思いも依らなかった。僕らの認識は、鳥羽伏見以降、いわゆる錦旗の許、官軍の猛烈な総攻撃が始まる、とばかり思っていたからだ。

また余話以外”お話”の部分も、他の幕末志士譚のような悲壮感や暗さがない。もともと司馬さんは明るく滑稽な小説を書くが、ことにこの村田蔵六には強い思い入れがあるのか、史実とは別に、まるで諧謔の人のように描かれている。この小説のテーマは”技術”であると著者は断っているが、蔵六が夜半、二人きりでシーボルト・イネを前にして、懸命に自制しているとき、ふと科学的に自己分析するくだりがあるが、ほんとに作家が楽しんでいるさまが伺える。またそのイネも、これでもかというくらい妖艶に描かれていて、これは大河の浅丘ルリ子にはなかった可憐さだ。僕としては上巻の、宇和島藩お雇い時代、嘉蔵とともに、日本初の蒸気船を発明するくだりで涙した。市井にある博識の底力と、それを封じ込める封建社会。嘉蔵をして「西洋なら大学の教授であったろうに」と、その愚かしい身分制度を慷慨する蔵六の、比類ない合理性と洞察力に大いに感動した。

数少ない理科系歴史ヒーローものでも出色の作品だと思う。
<技術者>村田蔵六の物語 ★★★★☆
司馬遼太郎先生の代表作、「竜馬がゆく」「翔ぶが如く」「世に棲む日日」の主人公、坂本龍馬/西郷隆盛/高杉晋作、などに比べると、まったく異なるキャラクタを持った村田蔵六(大村益次郎)が主役の物語です。戊辰戦争を勝ち抜いた稀有の軍事の天才であることには間違いないのでしょうが、反面、<技術者>の悲哀がよく出ていました。やはり、<政略家=人を使う側>と<技術者=人に使われる側>は、両立しないのでしょうか。
稀代の仕事人 ★★★★★
蔵六(大村益次郎)には壮大な新国家像を想定する能力があり、万人に一人と云う
軍事的天才というしかない人物であった。兵書の翻訳という作業のみで軍隊の動き
というものを明確にイメージできたのであろう。今風の言葉でいえば右脳が人並み
外れて発達していた一種の天才であると思える。
天才であるが故に自分自身の保身や危機管理能力は無いに等しく、人の感情には
およそ鈍感であった。実務家の中の実務家であり、軍制の面からは武士を廃止して
四民平等ということを考えた実に合理的な精神の持ち主でもあった。

世間の求めるままに(需要のあるままに)動き、倒幕という思わざる歴史的役割を
果たし、多大な仕事と実績を残したわりには人々の印象は薄い。そのような徹底した
仕事人としての姿にたまらない魅力を覚えるのである。
古き良き日本男児 ★★★★★
幕末の隠れた英雄、大村益次郎の物語。
正直、途中で読むのを止めてしまおうかと思うほど退屈な物語であった。

英雄というには、あまりにも英雄らしくなく、
あとがきで著者も書いているように、
「平凡な男」
が描かれています。
自ら、運命を切り開くでもなし、人の上に立つ人柄でもない。
時勢に流れ流されて、漂っていくが如くの人生を送る。
余りに、淡々としていて、飽きてくる。つまらないのである。

しかし、それでも読み終えると不思議な感覚を覚えます。
「読んで良かった。」と思えます。
まるで、この主人公の人生のように、
終わってから「ああ、そうだったのか」感じることのできる小説です。
表紙のデザインの謎も解けます。

自分自身を1つの機械として、社会に機能化させ、
淡く煙のような存在を放ち、
人望はなく、妻にすら相手にされない。

誰からも忘れ去られた人生を送ったようで、
歴史上、しっかりと役割を果たし、靖国神社の銅像となっている。

小さな自分をしっかりと把握し、
生かされている社会で、「自分にできることを愚直にやる」
といった姿勢は大多数の平凡な男の見本ではないでしょうか。
少なくとも、私には、この男が素晴らしい人間だと思えます。

決して羨ましい人生ではないし、
見本にしたくない部分はたくさんあるけれども、
他の幕末の英雄からは得られないものが、
この男からは得ることができると思う。

この平凡な男のもつ、ただ一点の姿勢が、
この平凡な男を靖国神社の銅像たらしめている。

「ひとの一生は、どうなのだろう。わしの一生は、どうも寒かった。
 寒い風がずっと吹き続けていて、今も吹いている。
 一生吹いてゆくような気がする。」

彼の寒い一生に、ただ一点だけ暖気と暖色を与える
イネという女性の存在も必見です。




お勧めの一冊 ★★★☆☆
下巻は、戊辰戦争です。彰義隊との戦いがメインで描かれていました。天才的な軍事能力を発揮して彰義隊を蹴散らした、明治維新の成立を影でささえた立役者でした。すごく地味な人ですが、日本にも合理的で論理的な人が過去にいたと思うと誇らしいです。靖国神社に銅像がたっている理由があらためてわかったよい本でした。