主人公がヒトラー学科の教授という設定からしてそうなのだが、本書では、死の予感めいたものが終始つきまとう。それは日常にあふれている電磁波かもしれないし、新種の化学物質なのかもしれない。
が、終わりがあるということこそが人生を意義深いものにしているということが著者のメッセージなのかもしれない。アンチテーゼとして、主人公の妻は死の恐怖から解放されるという新薬開発の被験者になるが、副作用として記憶障害に悩まされる。小さな息子は三輪車で高速道路を嬉々として走り回る。これがハッピーなことなのか、読後も考えさせられる良書。
ただ、翻訳のひどさは相当なもので、パラメディック=落下傘医、というような、明らかな誤訳がかなりある(まぁ、躁的にプロットが飛ぶ小説なので深みが加わっているというみかたもできなくはないが、、、)。文章も理解しづらかったり日本語になってないところが多々あり、訳文に我慢できる人向け、ということで星1つマイナスです。
大学教授が毒物事故によって致死性の成分を体内にとりこんでしまう。彼はまさか自分が死ぬことなどは信じられない。日常生活で起きる小さな不和を克明に描きながら、彼が自分の死と直面していく術を見いだすまでを描く。現代版「イワン・イリッチの死」とも言える。
ピンチョンやパワーズ以上に豊富な語彙や専門的な話題がもりこまれているのに、なぜかモノトーンの味わいですんなりと最後まで読めてしまう。