ロアルド・ダールですら1980年代はじめのあの「頭字語」ブームには逆らえなかったとみえる。「BFG」とは、果たして、大声でどなるフェレット顔のゴルファー(Bellowing ferret-faced golfer)のことか?陰で悪巧みをする妖精の名づけ親(Backstabbing fairy godmother)?いやいや実は…大きくて親切な巨人(Big Friendly Giant)のことだ!
彼ははじめのうち、それほどFriendly(親切)とは思えない。なにしろロンドンのとある通りにこっそりとやってきて、小さなソフィーをベッドからひょいとつまみあげ、あっという間に巨人の国へ連れ去るときている。おまけにBFGは、「邪悪な人食い巨人」たちに比べれば、それほどBig(大型)でもない。彼らはBFGを変わり者のチビだと言っていじめていた。こんなBFGが食べるものといえば、むかつくような味の「スナッズカンバー」だけ。ほかの巨人たちが小さな少年や少女たちをむしゃむしゃと食べているあいだも、BFGだけは、子供たちの部屋の窓からせっせと楽しい夢を吹き入れてやっていた。なんと奇特なGiant(巨人)だろう!
BFGはダールが創造した数々のキャラクターの中でも最も愛すべきひとつに数えられる。耳の中の柔らかな部分にソフィーを寝かせ、新種の蝶でも捕まえるように夢をつかまえに駈けていくBFG。奇妙な単語の入り混じった、はちゃめちゃで愉快な言葉をしゃべるBFG。女王のために「ホイッズポップ」を放つBFG。どんなときもBFGは、決して消えない温かな感動を与えてくれる。