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時の潮

価格: ¥2,100
カテゴリ: 単行本
ブランド: 講談社
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   戦争と肉親の死を鮮烈に描いた芥川賞受賞作品『北の河』の完結編ともいうべき長編小説である。第55回野間文芸賞を受賞。

   主人公の水品慶夫は昭和ひと桁生まれの元新聞記者。いまは東京下町のローカル紙を手伝っているフリーライターの身だ。妻を交通事故で失ったあと葉山へと移り住み、そこで10歳年下の芹口真子と同棲をしている。

   時代の終わりとともに、水品のところには、昭和にまつわる仕事が舞い込み始める。それに関するローカル新聞の企画を立てたり、天皇や太平洋戦争に関するインタビューを重ねていく過程で、主人公は昭和という時代の特異性を改めて感じ、過去の記憶へと沈潜していく。ある者は昭和天皇を懐かく回顧し、戦前を決して悪い時代ではなかったと弁護する。またある者は自らの戦争体験を石のように腹の中に秘めたままこの世から去ろうとする。水品自身、幼いころの母親にたいするある割り切れない思いが、氷解することなく胸中にずっとわだかまったままになっていた。その姿は『北の河』の15歳の主人公の少年と重なり合う。その少年が成長して水品になったともいってもいいだろう。

   昭和という時代をテーマにした小説と聞くと、つい重苦しい印象を抱いてしまいがちだが、この小説はまったく深刻ぶらずに進行していく。水品と真子のふたりが織りなす日常生活と葉山の四季折々の自然が、この物語を上品で軽やかなものに仕上げている。(文月 達)

「昭和」とは私たちにとって何だろうか? ★★★★☆
 「昭和」が終わったあとのほぼ1年間に、熟年に足を踏み入れたジャーナリストの主人公が、その仕事と生活を通して、天皇、戦争、結婚、家庭、人生、同僚などについて東京は下町、湘南は葉山の四季の変化の中で思考をめぐらす。そのことは、昭和を振り返り、その時代がいったい何だったのか、それが新しい時代とそこに生をおくるであろう日本人、老若世代の日本人にとって何を意味するのか、じっくり考える素材を提供する。結論らしきものは明確に示されていないが、方向は自ずと浮かんでいて、その方向で読者が自由に考究できる仕組みになっている。その方向とは、何のしがらみにもとらわれず、事実の積み上げからみえてくる方向とでも言えば良いであろうか。私も、読んだ後、その考究を折々に牛の反芻するごとく続けている。
 なお、「失われた90年代」や昨今の過激な構造改革とその下での人々の抱える課題は、執筆年代からして言うまでもなく扱われていない。それは、別の小説で展開されて然るべき課題である。
それでも静かに時は流れる ★★★★☆
静かに時が流れ、その流れにあらがうことなく静かに生きる...。
波乱に満ちているはずの登場人物の人生がひたすら淡々と綴られ、
極限の静寂の中、葉山の波の音だけが繰り返し聞こえてくるようです。
逆立った心を静めたい時、読んでみてください。