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アメリカ―非道の大陸

価格: ¥1,680
カテゴリ: 単行本
ブランド: 青土社
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閉じない物語 ★★★★☆
読んでいて、ふとエドワード・ホッパーのいくつかの絵が浮かんだ。

「あなた」はアメリカを旅している。
「あなた」を車の助手席に乗せ、あちこち案内するのは、「あなた」が偶然知り合った人物だったり、あるいは「あなた」の友人の友人とかだったり。つまりはよく知らない人物ばかり。
その薄いつながりを頼りに、目的も曖昧なまま彷徨う「あなた」を突き放すでもなく受け入れるでもなく、広大なアメリカは「あなた」にとってどこか捉え難い異邦の地として、そこに在る。
「あなた」のみが存在し「わたし」が出てこないこのアメリカ紀行は、しまいには現実と幻想の境界をたゆたうところまで「あなた」を連れて行き、そのまま閉じることなく終わる。

非道という言葉の意味を、辞書どおりに解釈する必要はないようだ。
多和田葉子流の米国大陸横断小説 ★★★☆☆

 アメリカの街を経巡る「あなた」が出遭った人々の姿を描いた物語群です。ネイティブアメリカンの営むカジノ、移住当初の生活様式を守るアーミッシュ、砂漠の中西部に生まれた幼い子供…。万華鏡社会アメリカの息遣いを不可思議な二人称で切り取っていきます。

 多和田葉子が二人称で綴る作品はこれが初めてではないということですが、物語の中心点にいるはずの「あなた」が、「あなた」と呼称されつづけることで、読者である私はその中心に何度入り込もうとしても弾かれてしまう思いを抱き続けました。まるで磁石の同極同士が反発しあうような感覚です。私の視点が「あなた」の外側に位置づけられることを強いられるため、頁を繰り続ける間、常にこの「あなた」の斜め上空あたりから物語を眺め続けることになるのです。

 最終章である「無灯運転」を例外として、この物語に出てくる人々の暮らしぶりは多種多様ではあっても決して浮世離れしたようなところはありません。多和田葉子自身がアメリカで実際に出遭った人々のことを、二人称形式で綴ってみることで半分ノンフィクション、半分フィクションといった彩りの小説に仕上げたといった印象を与えます。事実こうした経緯によって仕立てられた小説かどうかは分かりませんが。
 主人公の「あなた」が、アメリカにおいては主張の欠如ととられかねないほどの、日本人独特の遠慮や自重を常に見せるあたりは、奇妙に現実味があります。読んでいて決まりの悪さを感じ、思わず苦笑することしきりでした。

 多和田葉子独特の物語展開自体もいつもどおり健在で、つかみどころのない、どこへともあてなくさまよい続け、果てることのない旅につきあうことになります。現実と非現実との狭間で心が揺れる思いを味わう、そんな小説でした。
「あなた」系の完結編か? ★★★★☆
『容疑者の夜行列車』と同じく「あなたは〜した」系列の作品。今回の舞台はタイトルが示す通りにアメリカ。
文体は『容疑者〜』と同じなのに、ヨーロッパを舞台にした『容疑者〜』とは醸し出される雰囲気が違い、アメリカはヨーロッパとは文化が本当に違うのだなぁと感じさせてくれる一作。是非『容疑者〜』とあわせて読まれたい。
ところで、この本のラストを読んで「あなた」系列の作品はこれで終わりなのかなと思わされた。今後の作品はどうなるのか気になった。
どこにも属さない人の視点 ★★★★☆
多和田葉子の作品の中では、かなりわかりやすい内容。
主人公の「あなた」がアメリカ各地を旅して、
出会った人々、目にした出来事などが綴られていく。
アメリカという巨大で不可解な存在を、
著者はヨーロッパ的でもあり、日本的でもある視点から語っていく。
日本人でありながら、ドイツに長く在住する著者だからこそ成せた業。
要はそれがどこにも属さない人の視点であって、
「あなた」であると同時に、著者自身なのだろう。