確かに中世の民話っぽい。でも、それだけ?
★★☆☆☆
「ペルソナ」はステレオ・タイプな「日本」批評である。(「顔の無い日本人」云々、「千と千尋」の頃の宮崎駿がよく言ってたようなアレ。)よって、余り感心しなかった。
「犬婿入り」は世界中にある異類婚姻譚の民話を多摩郊外の団地で展開してみせた作品。出てくる男達は、どことなく同性愛的共同体の一員という感じでマトモな台詞もない。女達も謎に包まれた自由人っぽい主人公以外は、狭い世界に生きる団地妻達である。ラストの突拍子の無さや長々とした文体は、なんか中世の物語集を彷彿とさせる。。。このように、ナンセンスなこのストーリーの味わいを色々と解析していく楽しみというのもあるのかもしれないが、何か頭で考え過ぎちゃったようなこの小説に僕は最後まで入っていけなかった。読んだものの「分かんないな、こりゃ」と思っちゃった読者もかなりいると思われる。(実際、芥川賞受賞時の選者評も大江健三郎以外はみんな困惑している。)
頭の良い作家さんだとは思うんですけどね。
マスオさんは幸せです
★★★★☆
『犬婿入り』です。芥川賞受賞の表題作と『ペルソナ』を収録する作品集です。
作者の文章は、基本的に「、」で次々と繋いでいて、「。」で終わるまでが長いです。読んでいると、息継ぎのタイミングが掴みにくく、ちょっと疲れちゃうかも。
長い文章なので、どっちかというと緩い雰囲気が漂うような気もするのですが、内容はといいますと……
犬婿入りはファンタジーですよね。キタナラ塾の汚い描写が徹底していてそこに凄味があったように思うのですが、民話というものは現実から即して生まれたものであり、であるからには民話のようなシチュエーションが現代都市生活の中でも起こるのかも、ということを考えると、最後の消えてしまう結末に至るまで、難解ながらも「太郎の正体は?」などといった謎を孕みながら興味深く読めるのではないでしょうか。
ペルソナは、ドイツに留学している女性が周りの人との付き合いの中で、言葉の違いやら何やらもあって自由な自己表現を模索するという話。ニセモノのお面を被った時に初めて、本当の自分を出せるという結末にいたるまでの紆余曲折の物語です。
すばらしい
★★★★★
ペルソナも最後のほうでびっくりして思わずうなってしまった。言語感覚のずれは人間としてのずれを生みだす。本当に大切なことは母国語でしかいえないのか、能面をかぶってしまうことで初めて外に露出できる感情(言語)を獲得したのだが、人間は実はドイツ人でも感情をおさえている(ディスコミュニケーション)ものだから、本当に感情をだしてもコミュニケーションできない。そんな悲哀。いかにも「小説家」らしい作品で好感が持てる。海外文学みたいだし。
しかしそれにも増して驚いたのは、表題作の犬婿入り。お姫様のお尻をぺろぺろ舐める犬の昔話をモチーフにした幻想小説。神様視点を使っての視点の移動と流れるままの文章が見事にマッチ、シュールさとあいまって巧みな幻想世界を完璧に構築していて、読んでいてとにかくおもしろい、傑作だ。この時代はまだファンタジーでも芥川賞取れてたんだ、とそのことも発見。
「ペルソナ」に関して
★★★★★
「犬婿入り」は芥川賞を取って当たり前の完成度だが、私には理解できない作品だった。
イヤだったのは、「ペルソナ」。ヨーロッパ圏の言語を話し、その国の人々を生活を共にする。
たまに、街のショーウィンドーに映った顔は、能面のようで、自分の物だと気付いた時に立ちすくむ、喪失感。
そんな体験を、皮膚の感覚で伝えるのが「ペルソナ」だ。
心あたたまる
★★★★☆
読んでいて思わず笑みがこぼれてしまうような作品でした。
どちらの作品も、
登場人物の心中の表現がとても好きです。