尽きることのない泉のような一冊
★★★★★
邦訳の方は旧版で2分冊になっており翻訳対象になっていない章もあるということで、
こちらを原書で購入して読み終えました。(凡そ3ヶ月を要しましたが)
感想としては「尽きることのない泉のような一冊」だと言えるでしょう。
なにより驚かされるのは、その着眼点の揺るぎなさと堅牢なフレームワークです。
「ネット時代のビジネスは従来の考え方とは全く違う」といった類の論調が、
短命なまま取り沙汰されたこともありましたが、著者は、本書掲載論文で、
既に1985年においてITの与える影響(第3章)、2001年においてインターネットの与える影響(第4章)について位置づけを与えており、Web2.0やソーシャルメディアだのといった小手先の目新しさに惑わされない見識を示しており敬服せざるを得ません。
一方で、「フラット化する世界」といった見方に対しては、本書第2部(6〜8章)において、企業クラスターといった地域特性に根ざした競争力という観点で、1990年に分析がなされており、浅薄で一面的な企業戦略論とは一線を画していることが改めて痛感されました。
第4部(12〜14章)は企業のCSR・社会貢献に関するパートですが、単なる寄付・ボランティアではなく企業の戦略上有用な要素として考察されていることは新鮮な驚きを受けました。
競争戦略論として知られるフレームワークは1970年代から著者によって生み出されましたが、最近の環境・エコ戦略まで30年以上経ても、その妥当性を失わず、
時代と著者の関心・要請の変遷(単一事業体→企業→企業と社会)を通じても、
軸はブレずにフレームワークの深みが増していくという概念体系の進化過程に、
驚嘆せざるを得ません。
数年単位で言ってることがコロコロ変わる凡庸な経営学者と、
世界のトップスクールの看板教授の絶対的なレベル差、
思考の明快さと骨太さが繰り返し堪能できます。
ミュージシャンで言えば「ベスト盤」にあたるスター教授の「ベスト論文集」ですので、戦略論に携わるものであれば備えておきたい座右の一冊です。