江戸時代の商家を生き生きと描いた作品
★★★★☆
商人(あきんど)というシンプルなタイトルにふさわしく、江戸時代の鰹節を扱う商家をリアルに描いた作品だ。
主人公(高津伊之助)は繁盛している鰹節商の伊勢屋の次男坊として生まれるが、創業者である父親が若くして死んだ以降は、競争相手に取引先を奪われ落ちぶれてしまう。
残された家族(長男や母親)と再興に向けて取り組むが、通常のこの手の小説とは異なり主人公がスーパーマン的な活躍をするわけではなく、次男として生まれた気楽さと悲哀の中で、少しずつ成長していく。
文末を見ると「この作品は、高津家文書を参考にしたフィクションです」とあるのでなるほどと思ったが、当時の鰹節の産地、製法、流通経路などがしっかりと描かれている点も興味深く、派手さはないが味のある作品だ。
商売は「アイデア」と「情報」‥。そしてアキナイは「飽きない」。
★★★★☆
にんべん三代目伊勢屋伊兵衛の苦境をはね返す努力と成功を描く半生記。
伊之助は大店の次男坊。
跡継ぎではない気安さの一方にある世の中ナナメに見る僻み根性とも
相俟って、なかなか商売に身がはいらない。
そんなところに父親が突然倒れ、兄と二人、いきなり双肩にのしかかる
重い店の経営。
当主を継いだ兄の婚礼に、客が来ないほど落魄した時代を乗り越えて、
にんべんは江戸一番の大店にのし上がる‥。
幼い頃の伊之助の疑問「商人は何のために商売を大きくするのか?」に、
父は「おまえもあきんどになるのなら、答は自分でみつけるのだな」と
応える。
立派に店を盛り返し、その答を見いだした時、伊之助は三代目伊兵衛を
継ぐ決意をする。
あきないとは?という重い命題に明快な回答をさりげなく示して、爽やかな
読後感につなげている。