リスクという考え方を中心にしたよいエッセイ集
★★★★☆
リスクについての系統だった解説ではないものの、一般の人が持っているリスクをめぐる各種の誤解をわかりやすいエッセイで説明する。たとえばリスクはひたすらなくすもので、ゼロにしなくてはならないというまぬけな誤解をきちんと批判し、わかんないことはわかんないので、リスクゼロなんてあり得ない、等々。
そしてむしろリスクを活用する方法、リスクと共存する考え方などを、結構上手に解説し、ところどころ株のチャート式予想屋をいじってみたり、なかなかおもしろおかしい、楽しい本にしあがっている。
主張そのものに怪しげなところは一切なく、知っている人なら常識そのもの(同時に、それが世間に理解されていないことも常識)なので、読みながら深くうなずける。知らない人は……説明されてもなかなか腑に落ちない場合が多いので、本書を読んで納得してもらえるかはわからないのだけれど、でもどういう考え方が展開されているのかは十分にわかるだろうし、いつの日かはたと気がつくこともあるでしょう。
一点だけ。冒頭に
「一つの怪物が、日本を俳諧している。――「リスク」という怪物が。
右の文章はもちろんカール・マルクスの有名な『資本論』の冒頭の一節をもじったものだが(後略)」
なる一文がある。ちげーよ。それ、「共産党宣言」ですから。この分、星引いときます。
リスクにまつわる楽しいエッセイ
★★★★★
リスクという言葉はもはや日常語になって久しいが、
本書はそれに関した厳密な理論の解説というよりも、
それにまつわる、何気に読めるエッセイとして大変に楽しい。
内容のベースはリアル・オプションという割とスタンダードな考えであり、
すべての資産の価格には変動リスクがあるという考えを敷衍したもので、
それ自体には特に変わったものではない。
一般に、リスクとは客観的に存在しているものであり、
それを前提に固い議論をするのが、
応用数理的な学者としては常道であるに違いない。
しかし、著者は、リスクがなければ精神が弛緩して
逆説的にリスクが高まるというような主観面での指摘もする。
あるいは、火山灰をかぶって売り物にならないと思われるレタスでも、
それは別に問題ないと消費者に訴えればいいことかもしれないといった、
リスクも本人の心次第でリスクにならない場合があると指摘する。
常に、いくつかの視点の転換があって、読んでいるものを飽きさせない。
あるいはそれは、著者が経済学というガチンコ分野でなく、
経営学という、ある種ヌエのような分野にいるからかもではないだろうか。
またトピックとしての、イスラム金融やオプション的保険金融技術のさらなる進歩のアイデア、
アイオワ大学の選挙予測市場の発展の話や、
東京都のオリンピック誘致の公共事業のプロジェクト・ファイナンス化などは、
今後の社会の新たな常識として、多くの人に共有され、真剣に考慮されるべきだろう。