ヴィゴツキーを思考の発達から見る
★★★★☆
本書はヴィゴツキーの心理学説のうち、とくに「最近接発達の領域(発達の最近接領域)」と「内言」の概念について、考察した本です。
発達の最近接領域と内言は、ヴィゴツキー心理学でも特に有名な概念ですが、広く行き渡っているが故にそれらは断片的な理解に陥りがちで、正確に理解されているとは言いにくい状況にあります。本書はこの2概念に内容を絞って、それらの正確で系統的な解説を心がけています。
まず人目を引くのは「最近接発達の領域」という語です。これは一般に言われる「発達の最近接領域」の原語のニュアンスを正確に訳すとこうなり、「次に続く発達」というニュアンスが強いことを、筆者は主張します。このことから科学的知識の教授における、人間発達を無視した教育技術論を退けることができます。
その他、内言段階に発達した人間にもまだ科学的概念に達していない「複合的思考」と、科学的概念を使いこなせるようになった「科学的思考」の違いや、感情と概念的思考の結合など、興味深いトピックが続きます。著作としては決して体系的にまとまっているとは言えないヴィゴツキーの心理学説を、思考の発達という視点からまとめ上げた労作です。