弾道
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第二次世界大戦末期の1945年3月、「この世の地獄」といわれたヨーロッパ東部戦線は最終局面を迎えつつあった。
かつてヒトラーの電撃戦で破滅の一歩手前まで追い詰められながら、スターリングラードの攻防戦でナチス・ドイツの攻撃を跳ね返したソビエト連邦赤軍が、ついに「最後の勝利」を手中に収めようとしていたのである。
物量に勝るソ連赤軍を前に「総崩れ」となったドイツ軍は西方に向けて後退し、一部の者はバルト海沿岸にまで追い詰められる。
しかし彼らはドイツ人の「精神的故郷」たる東プロイセンの古都、ケーニヒスベルクの城塞に立て籠もり、間近に迫る「破局の足音」に怯えながら尚も頑強に抵抗し続けていた。
ソ連赤軍の若い女性狙撃手、リラーナ・アルダーノワはこの時、寒風吹きすさぶ東プロイセン、ケーニヒスベルク地区の戦場にいた。
彼女は「史上最強の女性狙撃手」と謳われたソ連邦英雄、リュドミラ・パヴリチェンコが隊長を務める「赤軍女子狙撃教育隊」で、教官たちからの火の出るような猛特訓を乗り越えて正式にソ連赤軍の狙撃手となったのだ。
リラーナの倒すべき敵はただ一人、「バルトの一角獣」の二つ名を持つドイツ国防軍の凄腕狙撃手、エルンスト・リンゲル……。
彼女の任務はこれまでに数え切れないほど多くの同胞を葬ってきたこの強敵に勝利し、彼を戦場から排除しなければならないという過酷なものだった。
そしてここに、一つの判断ミスが死を招き、狩るものと狩られるものの立場が一瞬にして入れ替わるという「危険なゲーム」の幕が上がる……
戦争の非情な現実の中で、生まれ持った過酷な運命に苦悩しながらも戦士として、そして人間として成長していく一人の少女の物語。
※ 本作品は、学研パブリッシング主催「第18回歴史群像大賞」にて奨励賞を受賞した小説に加筆修正したものです。