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滴り落ちる時計たちの波紋 (文春文庫)

価格: ¥630
カテゴリ: 文庫
ブランド: 文藝春秋
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難解だが、面白い ★★★★☆
最近、新作『ドーン』を出した著者の旧作。特に気になっていたのは「バベルのコンピュータ」。コンピュータに小説を書かせるという設定自体は、よく出てくるが、その設定も著者の筆にかかると、虚実取り混ぜられ、不思議なメタフィクションになる。

何十年後(もしかして数年後)、コンピュータ技術が発展し、ここで書かれているようなことが現実に可能になるとしたら、そして、この文章を小説だと知らない人が読んだら、どう思うんだろう?興味が尽きない。

もしかして、今でもできるんだろうか?原理的にはできそうな気もするんだけど、できあがったものを参照する仕組みは難しそうだな。

その他にはカフカの『変身』を題材にし、時代を現代の日本に置き換えた「最後の変身」も、現代日本の若者の生態をよくとらえていると思う。というより、なんだか自分のことを言われてるような気がしたのはなぜか。
もしかしたら、若者だけでなく現代の日本人全般に言えることなのかもしれない。
いっしょにモガけば、あら楽し。 ★★★★☆
古典的な(といっても近代のものであるが)作品を知れば知るほど、多くの構造的冒険はやり尽くされた感がいなめないような手前味噌。
この時代で、コトバによる表現が所有しうる新しさとは、何だべか。コトバさん、あなた一体どうしたい訳?
すかさず行き着く先は、グラフィック的な工夫や、インターネットとの相互関係への波及!?あら、あたりまえかしらん。
ではでは、その「あたりまえ」のなかでの独異性の演じ方はいかに。
こんな自問が好きな方に、こちら是非おすすめです。

平野氏は、「あたりまえ」の中でしっかりとモガイてくれています。(いい意味で、です)
以下、さらっとぽきっとレビューらしい事を少々。

・『白昼』ースピードをコントロール!?そうは問屋がおろさない。バロウズのカットアップのようなザクリ感にて、雰囲気的にはコトバの不連続感がどう転ぶか。でも、美的。

・『瀕死の午後と波打つ磯の幼い兄弟』ー適度な実験性であり、太宰を思わせる技巧かも!? 個人的には結構成功してるように感じます。

・『最後の変身』ーこちらとってもオすすめです。彼がこんなにユーモラスな話を描くとは、逸品です。

バベルのコンピューターも面白いですね、結果的には、脱構築の影をふみフミした作品群に見えますが、文学のこれからを考えるのに、とってもいい作品集ではないかしらん。と思います。

追記
例えば、ちょっと前にあった『文学の触覚』展なんかが気になるならば、体感しておいて有益では。
翻弄される ★★★★☆
レトリックにすぐれた文章で読み手を翻弄する。ある点からはじまってまたその点に戻る物語を何度も繰り返しているうちに、どこにつれていかれるのか楽しさと共に不安感も増していく。そして結局僕はここに取り残されるのだ。
本当の自分自身 ★★★☆☆
この短編集で一番印象深いのは、やはり『最後の変身』でしょう。
カフカの『変身』のパロディであることに加え、ドストエフスキーの『地下室の手記』並みの悪口雑言によって、絶えず社会生活の中で「役割」を与えられながら生きていかざるを得ない、人間存在の悲しき本質、そしてネット社会におけるブログや日記などの虚偽性というものを暴いていき、「本当の自分自身」というものが何なのか、ということを考えさせられます。また、この作品に於いて、平野氏の思春期のアイデンティティーの揺れというものも端々から顕現せられているように思え、そういった意味でも面白いです。いずれにせよ、現代人ならば読んでみるべき作品だと思います。

『瀕死の午後と波打つ磯の幼い兄弟』では、薄汚れてグロテスクな大人の世界の前半と、ピュアで無垢な子供の世界の後半とを対称させ、終いには連結させるという手法で、何か現実を象徴したアレゴリーを感じました。

『バベルのコンピューター』では、平野氏がデビュー作から掲げている問題意識である「多元論から一元論へ」、即ち「脱・差異化」というものがテーマですが、やはりこれは、個人的には理想論に過ぎなく思え、しかもそういった思想を掲げるにも拘らず、極めて権威主義的な傾向が見られる平野氏には、正直矛盾を感じたりします。

その他の作品には、明らかに日野啓三氏の影響が垣間見えます。しかし、例えば『珍事』などで、実社会での経験が無い平野氏がサラリーマンを「男」と据えて描いても、実社会でサラリーマン(新聞記者)としての経験がある日野氏が描くそういった作品に絶ち現れるリアリティーというものには、到底及び得ない壁というものがあるのを、皮肉でもなんでもなく感じてしまったのは事実です。でも、現代に於いて、時代や文明に対し、孤高に戦う文士である平野啓一郎氏、これからも頑張ってください!
新鋭はかくも五感を研ぎ澄ましている。 ★★★★★
日蝕に翻弄されはしたものの、一月物語で彼はただの懐古趣味なのでは?と疑った自分が恥ずかしい。高瀬川でそんな自身に反省し、本作で本当に彼の虜になった。短編集だが実にいい意味で全くとしてまとまりがなく、夢のようである。それでも秩序がそこにある。前へ後ろへ右へ左へはたまた記号の中へと揺られては心地よく裏切られるが、この本を手にしただけで嬉しくなる自分に気付く。