彼にしては不思議な短編集
★★★★☆
短編4本が収録された短編集。なんだかよく分からない実験的な小説もあるけど、一番面白かったのは表題作だ。
男女がラブホテルで一夜を過ごすというだけの話なんだけど、彼が描くと、単なるセックスの話ではなく、細部に至るディテールに引き込まれ、何かものすごく特別なことが描かれているような気がしてくる。不思議。
そこが彼の才能なんだろうけど...
ただ、あまり心に響かないのはどうしてだろう? v
難解ではありません
★★☆☆☆
この作者の本は、期待して読むと、毎回裏切られます。
「追憶」では、実験的な手法を用いたいのは分かるが、これは既にマラルメなどの著作にも見られる手法で、ちょっとフランス文学を勉強していればすぐに分かり、それほど目新しくないです。
「高瀬川」でのセックス描写も至ってノーマルで、これを文学として発表する意味があるのかどうか果たして疑問です。
三島由紀夫と違ってこの作者の致命的な点は、作品において作者自身の倒錯性が欠如していることと、文体から優越感が垣間見られてしまっており、匂い立つようなエロティシズムが感じられない、ということでしょうね。
小説の技法や技巧にばかり気を取られて、文学の根本的なことを見失っている気がします。
ただ、平野啓一郎は難解だ、と思って敬遠している方には、全くそんなことは無い作品ばかりなのではじめて読む方でも大丈夫ですよ、とだけ言っておきます。
瑞々しい短編集
★★★★☆
・短編作品として、極めて正統的であり、凛とした印象を添えた小品、『清水』。
・「大野」という、筆者の投影とも取れる人物と、女性編集者とのラヴホテルでの一夜を、繊細に事細かに描写した、『高瀬川』。
・千切れた懐かしき散文詩、『追憶』。
・実母を失くした少年の世界と、医者との不倫に悩む大人の女性の世界が、それぞれ上段・下段で行き交い、最後は双方が喫茶店にて連結し、カタルシスを感じさせられる、『氷解』。
以上の、本書に含まれた四作品は、どれも筆者の瑞々しさを感じさせられます。
筆者の若さに才能が伴う故に、このような良い意味で蒼い作品が生まれたのでしょう。
意外と読み易い
★★★★☆
著者の作品は初めて読んだ。
(1)情景の描写が微細、(2)漢字使いや言い回しが難しい、(3)手法で遊んでいる、というのが特徴と言えるでしょうか。
表題作の「高瀬川」は題材としては目新しいものはないが、その描写(官能的な部分を含む)に「ああ、あるよね」と思せるところがあり、個人的には楽しめた。
「氷解」では、並行で進んでいる物語を二段組で同時進行させている点において、新しい手法にチャレンジしている風であるが、その実はそれほど奇抜なものでもない。寧ろ、同時進行していると思わせる物語が実はシンクロしていない(主人公それぞれの思い込みによる)、というズレ方にこそ「遊び」がある。そういう意味ではやられたかな。
実験的な要素と日本語の限界に挑戦する要素
★★★☆☆
作家とファッション誌編集者が京都のラブホテルで一夜を過ごす表題作、物心つく前に実の母を亡くした少年と、納得のいかない生活と不倫を続ける女性の物語が、上段、下段で同時進行し、図書館前の喫茶店で交錯する「氷塊」、他短篇小説の可能性を探る二作品を収録した短篇集。
平野氏の作品は読むたび、実験的な要素と日本語の限界に挑戦する要素があって楽しいのですが、この作品集にもまたそういう良さがあります。加えて、言語という道具の能力を徹底的に使うことで、現実を表現し切ろうという肩の力を抜いた気迫が感じられます。とくに、表題作は感情の流れと時間の流れが絶妙に切りとられていて、音が聞こえてきそうなくらい生々しい感じがします。「氷塊」も、複眼的な視点が立体的で、また違った意味で、器用に人と人のすれ違いと交錯をつかんでいます。他の二作品は、やや実験的な香りが強すぎる、というところでしょうか。