技術と倫理の一体性
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技術哲学の本です。技術哲学は科学哲学と名称は似ているのですが、一般には余り知られていません。技術論の立場からではなく、西田やハイデッガーの視点も含んで考える本格派な哲学の立場から、著者は以前から欧米の技術哲学を紹介されています。
普通は技術と倫理は、互いに外のもの・付帯的なものとみなされます。制作物が完成し引き渡し後に、使用中に生ずる事故。その原因解明の中で、技術者の倫理責任が問われます。しかし著者は、技術と倫理の間には相互の本質的な内的連関があること。また両者の問題の発生を、完成後ではなく制作時の事柄として捕らえることができると考えています。一つの事態の2つの面、2つの機能者として考えています。著者自身の説明では、これは社会構成主義の考えだそうです。この立場に立てば、技術制作時に、制作者と製品と使用者の相互の多重的な連関は現にあり、むしろその関係を大事にすべきだということになります。例えばユニバーザルデザイン仕様の建物を作る際に、デザイナー・使用者・設計者・施工者などが相互に参加でき、意見を出し合える公共空間が大事だと考えているようです。
しかし著者も挙げているバウハウス運動でも見られるように、皆に事柄を判らせるような技術、当時ノイラートが指導しアルンツが描いていた広報技術の能力がないと、何も知らない使用者から意見を吸い上げること自体が難しいなと思いました。
本書は、教科書として書かれています。シャトル事故の詳細な記述があり、それが実は柔軟な解釈で多様な物語になる話など、専攻に拘わらずに面白く読めます。読者が自分で考えられる機縁を与えるように、著者が苦心して考え辿っていった流れを明確にすることに配慮がされているようで好感がもてます。