ザ・村上春樹!という感じの一冊!
★★★★★
かなり面白く読みました。
『海辺のカフカ』を数年前に読んでいましたが、『世界の終り〜』はそれと同じぐらいか、それ以上といっていいくらい大好きな作品となりました。
『海辺カフカ』では、二つの異世界の意味するところがイマイチ掴みにくかった(それが良いところだったりもするけど)のですが、『世界の終り〜』は、二つの異世界の意味が割合はっきりと提示されています。
村上春樹の世界観を理解するうえで、とても有効な本だと思いました。
それと、すべての村上春樹作品に共通することですけど、文章がとても上手い!
分厚い本なんですけど、その文章の上手さのおかげで、スラスラと読ませてくれます。
とても良かったです。
世界は「僕」から始まり、「僕」が世界を終わらせる
★★★★★
この小説の最大のテーマは「意識」である。
「私」が生きている世界。ハードボイルド・ワンダーランド。
この世界では、「私」が自分の人生をコントロールできないことを「認識」する。
自分自身で人生を歩んできたはずなのだが、
本当に、自分自身で決断し、自分の人生を選んできたのだろうか。
どうにもならない運命を思う。
そこで、「私」は、自分の無意識の世界を知ることとなる。
「僕」が生きている世界。世界の終り。
この世界では、僕自身が作り上げた世界の中で、僕が生きていることを「認識」する。
村上春樹さんが、雑誌少年カフカでこう述べている。
「われわれの意識は、我々の肉体の中にある。そしてわれわれの肉体の外には別の世界がある。
我々はそのような内なる意識と外なる世界の関係性の中に生きている。その関係性は往々にして、
我々に哀しみや苦しみや混乱や分裂をもたらす。
でも、と僕は思う。結局のところ、我々の内なる意識というものは外なる世界の反映であり、そとなる世界とはある意味では我々の内なる意識の反映ではないのか。つまり、それらは、一対の合わせ鏡として、それぞれ無限のメタファーとしての機能を果たしているのではあるまいか?」
村上春樹さんのシャフリング?により生み出されたこの物語。
個人的には、「世界の終り」は、村上春樹さんのコア意識ではないかと感じています。
超えることのできない壁に閉じ込められた、完全なる世界。
しかし、完全というものは存在しない。
そこでは、完全のために、何かが犠牲にされている。
そして、出口がないわけではない。
それでも、「僕」は心と森に残ることを決意する。
この「世界の終わり」に残り、戦うことを決意する。
あなたは、どのような「世界の終り」を描くのだろう?
そして、どのように「ハードボイルド・ワンダーランド」を迎えるのだろう?
村上春樹さん、素晴らしい作品を本当にありがとう。
やっぱり、彼がベストセラー作家であることには
ちゃんと理由があるのだ。
金色の獣
★★★★★
内容については他の方々が素晴らしいレビューをしてくれているので、私は軽く商品の説明を。
内容としましては文庫だと上下巻だったものが一冊に。
大きさは普通の単行本タイプのハードカバーです。
カバーを外すととっても綺麗なイラスト?が書いてあります。(多分世界の終りの森の中かな)
自分は十代でこの本も文庫でしか読んだ事がなかったのですが、本当に大好きな作品で文庫がぼろぼろになるまで読みました。
単行本は2セット(前述のぼろぼろと人に貸す用の綺麗なもの)ありますがやはり単行本はいいですね。
文庫本は文字が詰まっている感じですが、単行本には適度な文字同士の空間があって、それがまた絶妙です。
読んだ事のある方はもちろん。
ノルウェイの森やIQ89などを読んで村上氏に興味のある方には是非オススメです。
個人的な意見になりますが村上氏の最高傑作です。
パラレルワールド
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初めて読んだのはいつだったか思い出せない。その当時はわかったつもりで読んでいた。それから10年以上経って再び読もうという気持ちになった。
この小説の書かれた80年代は外の世界に生きること、起こることが圧倒的だと信じられていた時代だと思う。頭の中にある世界などおとぎ話だと感じる人も多かったかもしれない。それから20年以上経った今では外の世界より脳内世界が存在感を増している。この世界観を表現するのは並の人間のできる業ではないが、読み手の想像力はそれに追いついてきたと思う。パラレルワールドが自分の頭の中にあることなど誰でも想像できる複雑な世の中になったということだ。
小説家・村上春樹の誕生物語
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ふたつの対極的な世界で,物語が同時進行で繰り広げられる,村上春樹の初期の代表作。ふたつの物語の意味や関係についてはいろいろな解釈の仕方があるように思う。
『ハードボイルド・ワンダーランド』 は,人間の欲望や享楽,苦痛や疲労感に満ちた世界であり,それら欲望の抑圧と開放の対比によって,“生きている” ということを実感させてくれる物語だ。 また,素敵な二人の対照的な女性とのやりとりが,この物語をとても魅力あるものにしてくれている。
一方,もうひとつの 『世界の終り』 は,主人公の無意識が心の深層に作り出した世界での話だ。 そこに住む人々には自我や欲望というものが無く,定められた生活を永遠に続ける。 この生命感の無い世界を否定し,そこから脱出しようとする主人公だったが,一人の女性が失った心を垣間見たことがきっかけとなり,この世界に残ることを決意するのだった。
村上春樹は,作家になる前はジャズ喫茶を経営していたという。 『ハードボイルド』 と 『世界の終り』 というのは,飲食店経営者としての現実と,長い時間をかけてつくりあげられてきた彼の内面の世界がモチーフになっているかのようであった。 このふたつの物語の結末である,現実世界との決別と,自己の内面探求を決意する場面とは,まさに 『小説家・村上春樹の誕生』 を描いているかのように思われた。