南の島のトゥグ (ぼくは機械の気持ちを知りたくない)
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コーヒー農園が広がる南の島のどかな村に、新しい技術が取り込まれていくときに、緩や
かに広がっていく変化。村で育った青年トゥグは、自分たちの生活に、じわじわと染みこ
んでくる「革命」を前にどう生きるのか。
「日本経済新聞電子版」や「ビジネスファミ通」などの連載を持つ筆者が、2012年5月の
「コミティア100」で販売した作品の全面改訂版。
<プロローグ>
燃やせ、燃やせ、燃やせ……
家の外では、村人たちは合唱するように大声を上げていました。
バケツドラムの音が、激しいリズムで響いています。
トゥグは自分の目の前で起きていることが信じられませんでした。肩をつかんでいる娘
は、かつて結婚をしようと約束をしていたことを完全に覚えていないようです。
娘の瞳には明らかな狂気がありました。
村人は、本当に家に火を放ったようです。
そんなばかな……という気持ちをトゥグは感じました。
トゥグは、魂のことを考えました。そして、自分を責めました。どうして、村人たちは
魂を失ってしまったのだろう。どうして、こんなことになってしまったのだろう。どうし
て、こんなになる前に何かできなかったのだろう……。
パチパチと火がはぜる音がし始め、急にあたりが熱くなり始めました。
トゥグは泣きます。
好きであった娘のために、泣きます。
娘とここで一緒に焼け死んでもいいと……思い始めました。
これは田舎の小さな村だったに、緩やかに浸透していった変化が引き起こしたものでし
た。
それは「革命」と呼ばれるものでした。