眠れぬ森の魔女(全巻)
価格: ¥0
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『眠れぬ森の魔女』(内容紹介)
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ディズニーのアニメ「眠れる森の美女」の物語を、“悪役”である「魔女」側から描いた大人向けのファンタジー物語。
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「眠れぬ森の魔女」の書評
By 井辻朱美 氏
(翻訳家、ファンタジー小説家、歌人。現在、白百合女子大学文学部児童文化学科教授)
(「次代に伝えたいこの1冊」として、PHPNo.593 1997.10号に掲載されたもの)
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「スター・ウォーズ」のヨーダ翁が、主人公ルークに物体浮揚を教えていて、沼の中の宇宙船を持ち上げさせようとする。「だめですよ。あれは大きすぎる」。
「大きいのはお前の意識の中においてだけじゃ」と言って、この小柄な老人は楽々と宇宙船を浮上させる。
はっ、と目から鱗が落ちる。ファンタジーは知恵の文学だったんだなぁ。
この主人公は、ヨーダの魔女版かもしれない。ディズニーの「眠れる森の美女」のパロディーか、と思って読みはじめたら大ちがい。
ヨーダに数倍するこの魔女の眼力と行動に、私は目から鱗が落ちすぎて、原作よりはるかにこっちが好きになってしまった。
王女に生まれて、妖精たちから容姿の美しさをもらい、隣国の王子と婚約して、というオーロラ姫のバラ色人生スタートに、これじゃ彼女がかわいそう、と介入する魔女は、森に魔法道場を開いている大賢人だ。とろい動物たちを、意地悪くユーモラスに鍛えていく。
たとえば「ことわざや一般常識は『呪縛文言』だから、まずそれを外さないといけないよ。魔法とはそういう縛りのない、綺麗なエネルギーのところでしか働かないから」。
フィリップ王子も姫も彼女のペースにまきこまれ、自縄自縛のいろいろな「呪縛文言」から自由になっていく。
でも、この魔女は、あくまでも気ままな遊び感覚で動いているだけ。
それが結果として、すべての帳尻を合わせてしまう大円団。
東洋的な知恵の世界だ。
あるいは禅の真髄といえるかもしれない。
最後にこのユニークな魔女、ちょっぴり王子に惚れてしまうというほほえましい面もみせる。
読んだあとに、大いなる心の凪の訪れる物語。
(井辻朱美 1997/10)
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