人生のフィナーレはこうありたい
★★★★★
アンジェロという老人の仕事は古い教会の補修をすること。
彼にとって建物を汚す鳥たちは迷惑な存在。長年にわたってためられた
木の枝や羽を始末しないことには、仕事にならないからだ。
そんな彼が、建物の片隅で傷ついた鳩を助けたことから物語が動きだします。
アンジェロには鳩の面倒をみる時間や理由もない。それでも鳩が元気に
回復するまで手当てをするのです。
アンジェロはイタリア語ですが「ANGELO」と標記すれば、
その意味するものにピンとくる人もいるでしょう。
彼は鳩の手当てに打ち込むことで、自分自身の翼の手当てを
していたのではないでしょうか。
肉体的に衰え、かつてのペースで仕事が進まなくなったアンジェロに
とって、鳩との間に生まれた友情は何よりもの力となります。
老人と動物との友情は、運命的に悲しい別れを内包していることが多い。
この話しも例外ではない。ただし、アンジェロの「最後の仕事」をしっかり
と見届けることができるので、悲しさよりも満たされた気持ちになります。
これからこの本を読まれるかたは、余韻にひたる時間も
充分に確保しておいてください。
人生の味わいがしんみりと伝わってくる大人向けの絵本です。
見上げる先にあるもの
★★★★★
シンプルな表紙が印象的だ。
主人公アンジェロと鳩が同じ角度で見上げる姿。
中身は街並みまで細かく書き込んだ絵がほとんどで
これを見ているだけでも楽しくなるほど。
作者はイタリア人ではないが、イタリアへの愛が感じられる。
絵の巧さも一役買っているのだがとにかく鳩が可愛らしい。
感情表現はひどく人間的だが動きは鳩なのだ。
鳩が鳩なりのやり方でアンジェロを励ます姿は
確かに胸を打つ。
最初にアンジェロが傷ついた鳩を見つけた場面で
「どうせ助けてあげて、情が移っちゃうんでしょ」などと思った。
それは確かにその通りなのだが、この本はそれだけではない。
壁塗り職人アンジェロの仕事の丁寧な描写、
仕事への想いと、老いや季節との競争、
ただ一生の中で成し遂げるべき仕事をするという事が
こんなに美しいとは知らなかった。
一生の仕事を通して、世界に残すもの。
アンジェロと鳩が見つめる先には、
実はまだやりかけの仕事が残っている。
誰かの力を借りて、なすべきことをする。
この本が示すのは、その最高の在り方のひとつだ。