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球体の蛇

価格: ¥1,680
カテゴリ: 単行本
ブランド: 角川書店(角川グループパブリッシング)
Amazon.co.jpで確認
"見せ掛けの悲劇"を作り出す必要があったのだろうか ? ★★☆☆☆
道尾氏の作風は当初、「独自の世界観を構築して、読む者に驚愕と戦慄を与える」ものだったが、次第に「一見、単純なストーリーだが、実は大きな仕掛けが施されていて、読む者に心地良い驚きを与える」騙し技へと変わって来た。それが最近では、興味の焦点が「人間の心理やその裏にある社会的背景」に移って来た様であり、本作もその最新の作風に属する。作家的成長の証かもしれないが、作者が創造する異界を愛好する向きにとって如何なものか。

冒頭の「星の王子さま」の引用が示す通り、本作のテーマは一言で言えば、「人は自分が見たいものだけを見る」であり、「その背後には幾つもの裏の真実があり、それらの真実は錯綜して絡まっている」、である。これだけの事を言うために、本作の様な"見せ掛けの悲劇"を作り出す必要があったのだろうか ? 主人公の関係者達に悲劇的運命を与え、更にそれらの人物間に異様に高い偶然性を持った人間関係を与える。それを、まだ高校生で洞察力が乏しい主人公トモの視点で描いて、眼力不足が不自然でないように見せかけ、隠された真実を次第に明かして読者に意外感を与えると言う手法。更に、思春期の青年特有の性的妄想の膨らみを加え、奇異なトモの行動の不自然さを二重の意味で隠匿する。トモが大学生になった最終章でも同様の手法の繰り返し。これをミステリ的手法に長けたと呼ぶのだろうか ?

このテーマでは、「星の王子さま」そのものや塩野七生氏のローマ史に関する一連の著作には勝てないのだから、作者にはもっと独創的なアイデアを披瀝して欲しかった。作者が創造する新しい異界を期待する向きがまだまだ多いのだから。
切なさが止まらない ★★★★☆
今や押しも押されぬミステリー界のトリックスターとなった道尾秀介氏の長編です。

ミステリーと呼ぶには少し違う趣きがあります。純文学のような、青春小説のような、それでいて儚く切ない物語でした。伊坂幸太郎氏からニヒリズムを抜いたような感じです。

死が、残された者にどういう影を落とすのか、その呪縛から解き放たれようともがく苦悩。哀しみと切なさが永遠に続く中に、一筋の救いがあります。

海辺の街並みに生きる哀しみを背負った3人の「家族」。そこには哀しみがあるがゆえに生まれる愛が育まれています。スノードームに投影された、囲まれ、守られ、遮断された世界は、壊されることを望んで佇んでいます。

全てを書き連ねず、読み人に預けた形のエンディング。切なさがリフレインしていきます。
陰鬱な・・・ ★★★★☆
過去に起きたキャンプ場での火事
とある民家で起きた火事
ふたつの事故(事件)の関係者が交錯する


新たな関係者の証言がもたらされるたびに、事故(事件)の真相が反転する
事故だったのか、事件だったのか
事故の原因は、事件の犯人は

証言は真実なのか
それとも、自分もしくは誰かを守る為の偽証なのか


「スノードーム」
「星の王子さま」に出てくるゾウをこなしたウワバミ

自分達の家庭を守る為についた嘘は、一生自分の胸の内で疼き続ける
罪と罰

「スノードーム」が象徴する、この世界(生活)は息苦しい



長編にする必要があるのだろうか ★☆☆☆☆
 書評等で取り上げられていたので読んでみたが、期待はずれ。
他者を思いやる嘘によって生じる皮肉な結果等物語自体は面白いが、読後の空虚感は否めない。東野圭吾の「白夜行」を絶賛するような方なら面白いと思うのだろうが・・・ シノプシスを思いついて、無理やりにキャラクターを作ったような印象を受けた。
真実はどこに? ★★★★★
「道尾秀介の恋愛物」とどこかで見たので、興味を持って手に取りました。
異次元を行き来するような世界を書いている作家と思っていたので、こんなにストレートに男と女を描いた作品には驚きました。
しかし、単なる恋愛物ではないのです。人間の「嘘」や「罪」について考えさせ、これでもかと読者を裏切る展開。いったい真実はどこにあるのか、全てを知っている人間はいたのか?読後、しばらく呆然としました。かなりおもしろいです。
ちなみに、タイトルの「球体の蛇」とは「星の王子さま」に出てくる象を呑み込む蛇の姿から来ています。
どんなに苦しくても、大きな象を呑もうとする様子と、本書の登場人物の苦しみをなぞらえたタイトル。さすがです。