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一下級将校の見た帝国陸軍 (文春文庫)

価格: ¥570
カテゴリ: 文庫
ブランド: 文藝春秋
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生き続ける帝国陸軍 ★★★★★
私はプラント工事を生業としています。どこの現場も正に日本軍そのものです。
例えば、労働災害は「員数上0」になってます。例えば怪我人が出たとする。基本的に隠します。労働災害になると、上の客に迷惑が掛かってしまいます。
また、休業災害になるとまずいので、怪我人を無理やり出勤させたり、「赤チン災害」と称し、無い事にします。
怪我を無くそう(実際には不可能)と、危険予知活動を行ってますが、具体性に欠け、最もらしい「言い訳」の技術と「格好良く見せる」為のポーズを発表する場になってます。
さらには、良く見かける「安全第一」の看板なぞ、「工程第一」に変えた方が良さそうです。
「秩序」に関しても、監督の言う事を聞かず、どっちが上司なのか分からない時もあります。
そして工程・図面は机上の空論な時も多く、作業員が全ての尻拭いをするのです。
これが帝国陸軍にあらずして何ぞや。
しかし、将来に希望を見いだすならば、最後の1ページの三行に全てが込められていると思います。この三行を読み終えた瞬間、関を切ったように涙が溢れてきました。
ルソンに眠る大叔父よ、安らかに。
現場からみた失敗の本質 ★★★★☆
昭和の帝国陸軍の組織の問題点を指摘する書籍は山ほどありますが、本書は、戦争中に著者が下級将校として敵の砲弾と身内の組織の異常さに晒されてきただけあって、その指摘には迫力を感じます。
事実と異なるタテマエの報告が横行した「員数主義」、日本軍人で敵国から尊敬された者はいなかった「仲間ぼめ」への批判は、現代の日本社会と日本の組織に通じる内容です。
また、統帥権の項で、「日本の国土に日本一般人国と日本軍人国が併存していた」「(陸軍は)国民軍でも国防軍でもなく軍人国軍だった」との指摘は、当時の陸軍の性格を極めて分かりやすく表現したものだと思います。
日本軍の組織的な問題点を指摘した書籍のなかで秀逸なものとしては「失敗の本質」がありますが、戦記やインタビューなどの調査を基にしたそれと比べて、この本は現場での体験を基にしている点で、ある種の人間臭さが濃厚に滲み出た日本軍(日本国)への批評になっているといえましょう。
「虚構」のメカニズム ★★★★★
日本軍の敗因は一言で言うと、組織論の観点からは、その科学的態度の欠如と視野の狭さに求めるきらいが多いですが、この本を読むと、問題は狭いそうした能力の問題だけではなく、日本軍は潜在的には戦争すること自体がナンセンスであることに気づいていた、いや分かりきった自明のことだったにもかかわらず、その体質・精神構造が合理的・現実的な思考を止めてしまった、という結論が見えると思います。身の回りだけの摩擦を避け、利得を優先することがどんどんエスカレートし、現実やあるべき姿から乖離していく構図が浮かび上がってきます。そしてこの精神構造はこの構図を雪だるまのように強化するのです。

著者は言います。「陸軍の能力はこれだけです。能力以上のことはできません」と国民の前に言っておけば何でもないことを、でっちあげた「無敵」という虚構に足を取られ、それに振り回されその虚構が現実であるかのように振る舞い、虚構が虚構だと指摘されそうになれば興奮して居丈高にその相手を決めつけ、狂ったように無敵を演じつづけ、万一の僥倖を頼み無辜の民の血を流しつづけた。その人たちの頭にあったものは何であろう。妄想ではないか。存在しない無敵の軍隊の実体が明らかになればすべてが崩壊することを知っていた。それが恐ろしいから虚構と神風にしがみついた。いざというとき、静かなる自信に基づいた発言ができず、神かがり的発言と動物的攻撃性で論理を封じるものに主導権を握られる。この悪循環は自分でもどうにもならなくなっていたではないか。

深い怒りとともに、「本人を死まで追いこんでいったのが、帝国陸軍なのか世間なのかと言えば判定は難しい」といったコメントに、一昔前の軍隊だけの問題と認識するに危機感を憶えます。

現代にも通じる日本の組織の問題点 ★★★★★
本書を読むと、現代の日本の組織が抱えている数々の問題点が、当時の帝国陸軍の中にも同じようにあり、同じような失敗を重ねていたことがよくわかる。著者が実際の従軍中に見てきた事大主義や員数主義、年次主義などは今でも至る所にはびこっているので、半世紀以上前のことは言え、非常に良く理解できるのである。ただ、収容所内での秩序が形成されていく過程は驚きであった。欧米人の場合は様々な委員会を作って任務を分担し、裁判所まで作って組織の秩序を維持していくのに比べ、日本人の場合は人脈・金脈・暴力による支配が行われるのである。この、無秩序から秩序が生み出されていく過程には興味が湧いたのだが、今、身の回りでそれを観察する場がないのが残念である。
今の日本社会につながる、構造的欠陥 ★★★★★
この本を読んで一番驚かされたのは、帝国陸軍といういわゆる「閉鎖的」「超保守的」「時代遅れ」と思っていた組織が、じつは日本の現代的な組織となんら変わらない組織だった、ということである。むしろ、より進歩したと思っていた現代の組織が、帝国陸軍の構造的欠陥を今に至るまでひきずっているのが驚きであった。

たとえば本書の中に、「要領」という言葉がしきりに出てくる。「要領」というのは、一言で言えば現場を知らない本社(本書では参謀)の指示を、いい加減な員数あわせですませることである。より具体的には、10門の砲をこの地点に、いついつまでに、という指令が来れば、それは極端にいえば砲だけを持っていけばいい。砲があっても弾がなければ大砲は撃てない。陣地として機能しない。しかしそれは帝国陸軍では問題にならない。なぜなら「10門の砲」という員数はあっているからだ。

また本書は、帝国陸軍が本気で対米戦を準備していなかったという、驚きべき事実を披露している。士官学校で教官が重々しく、「今日から対米戦に重点を置いて教育する」という。しかし照れくさそうに、「何を教えたらいいのか、実はわしにも分からん」と付け加える。そして陸軍はその最後に至るまで、陸軍全体の方針として、それまでの経験を踏まえて対米戦の戦略・戦術を大転換するということはないのである。しかし掛け声だけは、「対米戦!」と声を張り上げる。なんという形式主義なのか! そしてこの形式主義は、現代の日本の組織の中で、かなり多く見られるものではないか。

本書は多くの哲学的考察を含んでいて、著者の教養の深さと、戦争という非常体験を通じていろいろなことをお考えになったのだろうということがひしひしと感じられた。後世に生きる私たちの使命は、本書から少しでも知恵を得、現在に至るまで日本社会に潜む構造的欠陥を、少しでもなくしていくことだろう。