主人公は超自然能力を備えた若い女性、テレパスです。その他の主な登場人物はバンパイアとシェイプシフター。舞台はバンパイアが市民権を得た仮想世界のアメリカです。大変短いタイムスパンで次から次へと問題が起こり、物語は主人公の一人称で語られていきます。テーマは穏やかながら流血とセックス。片田舎に住んでいる善良なテレパスの主人公がバンパイアと係わり合いになったばかりにいろいろな事件に巻き込まれ、ついに自分の中でのモラルと折り合いがつきにくい状態になってきました。Ms HamiltonのAnita Blakeシリーズと酷似しています。
似ているのですが、この3作目では細かい設定がもう少し明らかになり、Ms Hamiltonのシリーズと違う点がいくつかはっきりしました。まず主な登場人物である主人公の恋人とそのボスのバンパイアの2人は中間管理職あたりで、その上にMs Hamilton流にいうとmaster of the cityにあたるkingとqueenが存在しています。またシフターが多く登場しますが、バンパイアとは直接の上下関係がありません。シフターの社会構造もなかなか面白い設定に作られています。また主人公は経済的な問題を抱えています。
以上のようにオリジナリティーも出てきたのですが、恋人との中が破局に向かいそうで、かわりに恋人のボスと急接近、また新しく登場したシフターとの仲もややこしいことになっていたり、悪者が死んでいくのを自分の中でどう折り合いをつけるかで悩んでおり、まだまだMs Hamiltonの作品と重なる部分があります。先にも触れましたが、暴力シーンも過激になってきています。
この作品では事件をひとつに絞りそれから派生する出来事を速いテンポで進めておりますので、滑らかに読み進めることができます。今までの3作品の中では一番のできではないかと思います。
バンパイアが社会的に認められるようになった過程がこの作品では説明されており、ストーリー自体とは関係ないのですが、ニューヨークのテロとイラク戦争の世界情勢を踏まえて考えてみるとなかなか興味深いものがあります。イラク戦争で自由と正義の国のアメリカに協賛する国々はバンパイアを認め、アメリカの政策に賛同しなかったドイツとフランスはバンパイアを認めなかった国としてあげられています。またボスニアも同様にあつかわれており、シリアとアフガンにいたってはかなり強硬に弾圧したとされています。2003年4月に発行された作品です。当時のアメリカの世論を反映しているのでしょう。
今回もヒロインは災難続き。そしてヒーローはいいところなしです。
代わりといっては何ですが、彼のボスが大活躍(?)し、株を大いに上げています。ヒーローの座を巡り、下克上が起きるのも間近か?
主役カップルの行く末にヤキモキしつつ、次の巻を待てというところでしょう。