現在までに２００冊以上の絵本の制作に携わったアメリカの児童絵本作家マクフェイルの平和な未来への強い願いを込めた力作絵本です。この絵本には語りの言葉がなく短い会話が少しと少年の手紙の文章の他は作者自身の描いた絵だけで出来ています。
男の子がある決意を抱いて手紙を書き、切手を貼ってポストへ出しに町へ出掛けました。空には爆弾を投下する戦闘機、地上では建物に向けて爆撃する戦車、町には緑色の戦闘服を着た兵士が行進し民家に押し入ろうとしています。やがてポストの側にいた不良少年が手紙を出そうとする男の子を邪魔し殴り掛かろうとしますが・・・・。
扉絵に描かれた男の子の「やめて！」と大きな声で叫ぶ必死の思いのメッセージが読み手の心に力強く伝わって来ます。男の子がケンカするのでなく言葉の迫力で不良少年を圧倒しポストへ「大統領」宛ての手紙を投函したその瞬間に世界は変わり始めます。行きでは警察の使いとなり人を追って走っていた犬が、帰りには大人しく頭を撫でてもらい穏やかにお座りする姿に変わっているのを見て、何とも言えない平和のありがたさを強く実感しました。著者は人間には過去から続いて来た悲しい争いや暴力が今尚現実として存在するけれども、努力すれば平和に変えて行く事は可能で「まだ間に合う」と主張しているのだと思います。この絵本は詳しい説明文を全く添えずに、イラストだけで描かれた暴力に脅かされる人々の不安に歪む暗い顔と平和な喜びに輝く人々の晴れやかな笑顔を対比する事によって、言葉よりも雄弁に読み手の心に訴え掛ける効果を上げていると言えましょう。本書は今を生きる大人達に深く反省をうながし、次の世代を担う幼い子供たちが読む事により戦争のない平和な未来を築いて行こうと決意を抱くきっかけにしてくれるだろうという意味で、誠に意義深い一冊だと思います。