味わい深い短編映画のよう
★★★★★
まずは表紙をじっくりと味わっていただきたい。
画面のほとんどを占める白い余白、そして文字のレイアウトと相まって、
視線はいやがおうでも下を向いた男の子の頭部へと導かれる。
男の子は自分を囲むように地面にチョークで丸を描いている。
内面的な世界が、うまく暗示されています。
さらによく見ると、作者名に添えられた小さな●はビー玉。
手に取れば、心地良い紙質と活版印刷のように少しへこんだタイトルにも
気付くことでしょう。
シンプルながらも神経がすみずみまで行き届いた造りの表紙。
落ち着ける時間と場所を確保してからページを開きなさいというわけである。
作品の舞台は60年以上も昔の東京。映画館や劇場が活気をもっていた古き良き時代だ。
今では大人となった「私」の視点で、子どもだった当時の思い出が語られていく。
話しの中心は、謎を秘めた少女と背後に見え隠れする威圧的な黒服の男との出会い。
虚構と現実が織り成す不思議な世界に、思わず引き込まれてしまいました。
ノスタルジックな想いに浸れる大人の絵本です。