想像よりもあっさりした作品
★★★☆☆
テレビドラマ歸國の原作ということで、興味があり購入した。
テレビドラマでは2時間特番ということで、内容の濃いメッセージ色の強い仕上がりになっていたが、果たして原作は?と思って読んだが、短編小説だったせいもあるかもしれないが、想像よりあっさりした内容だと思う。すぐに読み終えてしまった。
ドラマでは戦後65年後の日本、原作では戦後10年後の日本という設定で、ずいぶん違う。それでも戦後65年経った今から見れば戦後10年なんてまだ戦後意識が強いものと感じるがそうでもなく、やはり「もはや戦後ではない」のかもしれない。
ドラマでの「腑抜けた日本人」というメッセージをこめた内容にも共感するが、年代は違えど同じ発想から描いた違うドラマと考えれば、むしろ心地よいストーリーと感じるかもしれない。
ただ僕には期待していただけに、あっさりしすぎていたかもしれない。
テレビドラマの原作を読んで・・・
★★★★★
今夏、終戦記念日前日8/14に放映されたテレビドラマを見たのがきっかけで
この原作本を手にした。
脚本家・倉本聰氏が、短編小説「サイパンから来た列車」に感銘を受け
50年以上温めてきた作品である。
原作の初出は「面白倶楽部」(昭和30年10月号)で、
その後昭和49年に、棟田博兵隊小説文庫(光人社)として出版されている。
テレビドラマでは戦後65年という設定だが、
原作では戦後10年目、つまり1955年(昭和30年)である。
原作冒頭に出てくる東京駅の乗降客数はもとより、
東京の街の風景、英霊たちの訪れた先の状況は、
戦後65年の設定のドラマと戦後10年目の原作とでは、
まさしく隔世の感ありである。
こうしたドラマ化にあたっての苦労が、
「あとがき」で自らの言葉として書かれている。
そんな中、脚本家倉本氏が、原作から読み取った問題意識とは、
「こんな、だらしのない、腰の抜けてしまった日本には、さらさら用はない。
おれはサイパンに永久に居るつもりなんだ。」
とのメッセ−ジではないだろうか。
原作に立ち戻ることにより、
あらためてドラマや演劇を通して脚本家が
より深く、鋭く提起している問題意識を汲み取れるのではないだろうか。
面白い発想 楽しめる感情移入
★★★★★
10年後の日本がどうなっているかを"偵察"しにやってきた英霊達はそれぞれの目で戦後日本を見て想いを廻らしながら行動し、帰って行ったと云う短編小説です。夜中から明け方までの僅かな時間と云う設定が、兵士達に思い出の場所を絞らせてだらだらした構成になる事を予め防いでます。発想が面白く"逆タイムスリップ"とでもいうのでしょうか。"両の眼で見た"日本の現状に愛想を尽かしてサイパンに"永住"を決め込んでいた尾上大尉に共感を覚え、寧ろ楽しく読ませて頂きました。『時には命をかけて物事を達成する覚悟と実行力を無くした無責任な今の情けない日本人』への柔らかな警鐘に思えます。本書をもとにしたドラマが2010年8月14日にTBSで放送されました。
家族を守るために亡くなった兵士は今の日本を見てどう思うだろうか
★★★★★
倉本聰さんのドラマの原作だということと、ジブリの「火垂の墓」「もののけ姫」の美術監督の山本二三さんの表紙ということで手に取りました。一気に読みました。
「第二次大戦後十年目の8月15日深夜、一台の軍用列車が密かに東京駅にすべりこむ、降りたったのはサイパンで玉砕してそのまま遺骨も放置された英霊たちの一連隊、彼らはなつかしい故国の深夜を夜の明けるまでさまよい歩き、南の海へ再び帰って行く。」(あとがき)
原作では、亡くなった兵士が10年後の日本に帰るという設定になっています。ドラマでは現在の日本に帰るということになっているようです。兵士は何のために戦ったのだろうか?自分たちが犠牲になることで、祖国に残された愛する家族が幸せになることを願いながら死んでいったことは間違いはありません。その兵士たちが今の日本の姿を見たときに、どんな風に感じるかという問題が突きつけられています。兵士の犠牲の上に我々の生活が築かれていることは間違いないことです。しかし、今の日本の姿を見て兵士は何を思うだろうということを考えさせられます。
このように紹介すると、深刻な話のように思われますが、読後感はむしろさわやかで透明な気持ちにさせられます。それは、「戦争の悲劇を決して高所から描くのではなく、その中に置かれた兵隊たちの人間を、あるときは人情、あるときはユーモアすら交えながら、むしろ淡々とおかしみで活写さている点にあるだろう」(倉本聰さんのあとがきより)
倉本聰さんのあとがきもすばらしいです。あとがきを読むだけでもこの本を手に取った意味があると感じました。読後に、山本二三さんの描いた表紙を眺めると感慨深い気持ちになりました。さすが「火垂の墓」の山本二三さんだなと感じました。