兄貴のお下がり
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不意に、ひとの視線を感じて振り向いた。ドアが薄く開いていて、その向うに人が立っている気がした。覗かれた?
「トイレ、借ります」
「おう、はやくしろよ。あんまり待たせると一人でマスかいちまうぞ」
兄貴は笑っていたけれど、オレはすばやく立ち上がってドアを開いた。でも、廊下には誰もいなかった。気のせいだったのか?
とりあえず階段を降りてトイレを借りた。小便をすませ、階段を上がろうとしたところで、丈二さんと出くわした。
「あ、き、公義君、トイレだったんだ」
「はい、お借りしました」
「そ、そう、ごゆっくり……」
話したのはほんの数秒だった。だがその短い間に丈二さんの顔は真っ赤に変わってしまった。いつももじもじしてるんだけど、ここまで顔を赤くして恥ずかしそうにしているのは初めてだった。階段を昇りながら思いついた。やっぱり見られたのかもしれない。それも、あんな弟に?
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元空手部のリーマン兄貴はやさしい絶倫男。アメフト部の大学生主人公はそんな兄貴に惚れ込んでいる。もう一年も続くカップルだが、乱交パーティも主催するスケベな二人。しかし兄貴分の実の弟は兄貴とちがっていつもモジモジ。そんな弟なのに兄貴はすごく大事にしていて……。
初出『バディ』。明るくスケベな読み切り短編。