本書を買い、恥ずかしいのでカバーをつけて電車の中で読んでいる己自身にどこか嫌悪を感じつつ、それでも即席の知識習得欲から解放されない人がこの国にはわんさかいるのではないか。かくいう私自身もこのあらすじ本を読んでしまう一員、「知の脅迫」に抗しきれない者なのだ。そういった意味で本書をカバーもつけず電車のなかで堂々と読んでいる者がいたとしたら、その読者のまぶしさに負けたと思うだろうし、そういう読者なら後ろ指さされず本書を読む資格があるだろうと思う。
自省もこめていうと、私はこっそりこのあらすじ本を読もうとした一人であり、さもしさを感じながらする読書とは何なのだろうと、自分に憤りさえ感じた。人知れず、隠れて読むべき本は少なからず存在するが、それは密やかな愉しみに裏打ちされていたりする。この本が密やかな愉しみを提供してくれたとは言い難いが、自尊心の揺らぎと引き換えに微かな知識欲を満たしくれたことには感謝しているのである。
最初、この本を購入したのは村上春樹氏の「若い読者のための小説案内」みたいな本なのかな?と思ったからでした。
「若い~」は、村上氏独特の解釈を縦糸に、実に簡潔に明瞭に、日本の私小説のあらすじをまとめ、その小説を実際に読む糸口となってくれました。
ただ、この「あらすじ~」は、あまりにも要約が即物的というか、「誰と誰が出てきて、どうなって、最後はこうです」と、事実の羅列でしかないのです。まあ、それでも優れた小説の構成やキャラの立て方の見事さには触れることが出来るのですが、、、。
内容を要約するだけでなく、もう少し主観的な導きでもいいから、編者の、その作品への解釈や思いなどを交えてくれたほうが、とっつきやすいのではないですかね、特に若い人には。