故郷 旅
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さっき別れ際、みんなに、村を出て行くという話をした。まんじゅう屋のおばさんは驚いていたし、さびしいと言ってくれたけれど、親戚はただうなずくだけだった。オレはずっと親戚のやっている旅館を手伝っていたけれど、元々、オレがいなくたって困らないところだったのだ。オレはばあちゃんの面倒をみないといけなかったから、人情で仕事をくれていただけ。だからばあちゃんがいなくなれば、オレがこの村にいる理由は何もない。
宿ではお客さんの荷物を運んだり、村の中を案内したりしていた。帰りには駅まで見送りに行った。その、いつも見送ってばかりいた列車にのって、このオレが村を後にする。人もまばらな列車の中で、車窓に流れる景色を眺めた。もう再び見ることもないかもしれない、故郷の景色。生まれて初めて、帰ってくるかどうかわからない旅に出るのだ。行くあてもないし、不安でいっぱいだけれど、これが自由ってものなんだろう。ばあちゃんが死んで悲しいのに、オレは解放されたと感じていた。どこに行ってもいいし、何をしてもいい。こんな自由は今まで一度も味わったことがなかった。
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一度関係を持った男をあてにして田舎の温泉町から都会に出てきた若い主人公。しかし男は約束の場所にあらわれず、また別の男をたよりにするが……。
初出『バディ』。「旅」シリーズ第六作で最終話。続き物ではありませんが、「旅」シリーズ第一作『いなかの男の子』http://www.amazon.co.jp/-ebook/dp/B00IODI958の後日談となります。読み切り短編。
注意!
他サイトにて『出発』というタイトルで配信されているものと内容は同じです。