感想を聞かれると困ってしまう
★★☆☆☆
コクトーの作品で澁澤龍彦の翻訳となれば、ぜひ読んでみたいものだ。そう思って手に取ったのだが、感想を聞かれると困ってしまう。
人間観察の表現であるウージェーヌの戯画は楽しめるが、それ以外の文章は、あまりにも散漫で、目の前に次から次へと繰り広げられる光景についていくことすらできない感じだ。
ただ、中にはきらりと光る印象に残るものが散見された。たとえば「両親にとっては、奇妙な遠近法の法則によって、目の前で大きくなってゆく子供が、逆に遠ざかってゆくように見えるのである」とか「正しいものと見なされた偽りの価値と永いこと親しく接していると、やがて僕の身体に毒がたまってくる」「旅行をすると、君の見方が新しくなるのか、それとも単に君の目に映るものが新しいだけなのか」などである。夭折した天才の切れ味をかいま見た気がする。
意味不明
★★★★☆
この小説(これを小説と呼んでいいのなら)は、正直難解です。
というよりほとんど意味不明です。
でもなぜか、最後まで読んでしまいます。
なぜだか止まらないのです。こんなことは初めてです。
だから面白いのかどうかわかりません。
でもいいです。
不思議な感覚を味わいたいのなら是非!
咲きこぼれる花のようなポエジー
★★★★☆
それにしても、この小説を二十四歳の時に書いたコクトーはやはり天才というしかない(決定版ができるのはもっと後だが)。実験的でストーリーらしいストーリーがないため一般受けはしないだろうが、コクトーの散文が繰り広げる万華鏡のようなポエジー、エスプリ、アフォリズムの軽やかな美しさは特筆に価する。何より、この散文詩的な小説を読みながら感じ取れるコクトーの精神の運動能力には驚嘆してしまう。そのすばやさ、軽やかさ、優雅さ、自在さ。まるでアクロバットを眺めているようだ。この愛らしいイラストがまた良い。幻獣ポトマックとは果たして何だろう? 天才詩人の精神の運動が描いた虹のような小説。
実験的,でも愛すべき小説
★★★★☆
昔は,全集でしか見られなかったポトマックが,文庫で読むことができるということはとても,すばらしいことだ.ポトマックの面白さは,コクトー自身が描くコミカルなイラストであろう.しかし,それだけには終わらない.若い詩人のほとばしる感性が,様々なところで見え隠れする.実験的ではあるが,愛すべき小説だ.
コクトーの詩は,日本人にとっては,フランス語という大きな障害が阻み,本来の持つ響きや韻を味わうことが出来ないが,ポトマックはコクトーの数少ない小説の一つとして,日本人にもなじむものなのではないだろうか.