国際企業の年次報告書には、圧倒的な量のフットノートが含まれる。そうしたディスクロージャー・パッケージから必要な情報を採取し、企業のメッセージを読み取ることは容易ではない。割引キャッシュフロー・モデルを提示し、財務分析にとどまらず経営戦略の視点まで織り込んだ本書は、コンベンショナルな比率分析を超えて、将来指向的な企業分析にまで、スポットを当てている。
本書は全17章、序論は「分析と評価のフレームワーク」の考察から始まり、第2部の「分析の道具」、第3部の「分析の応用」というテーマが、各章に振り分けられ詳説されている。原書は気鋭の会計学者3名の執筆によるもので、1996年の初版刊行以来、学会からはメダルを授与され、すでにこの分野の「事実上標準」と呼べるテキストになった。
「財務諸表を使ったビジネス分析とバリュエーション」という原題のもと、最新の研究成果を反映したこの第2版では、会計的なアプローチを補って、新たに5つの章が加えられた。初版から引き継がれたハーバード・ビジネススクールのケースに加え、実在企業の最新のケーススタディが収められていて興味深い。邦訳は複数の大学教員により分担され、斎藤静樹東大教授の監修を受けており、緻密なものだ。
タイトルにこそ入門とあるが、原書は1000ページ以上の大著であり、邦訳も600ページを超える。本書から最大限の成果を引き出すためには、あらかじめ財務や会計の知識を得ていたほうが良かろうが、いかにもアメリカのテキストらしい網羅性のゆえに、企業分析のフィールドに広くなじむための格好の1冊に仕上がっている。長く書棚に留め置かれ重宝されることは間違いない、本格派の読者のためのハードカバーだ。(任 彰)
ファイナンスの本には、企業価値測定のために会計数値をキャッシュフローへの変換したり、税務上の減価償却費の損金算入によるファイナンス効果などについて書かれているが、会計や税務に関しての知識がさほどない人にとっては、イメージが沸きにくい所だろう。
会計の本を読めばいいのだが、仕訳や複雑な会計処理は頭に入らないのが現実である。
一方、会計の本には会計原則や会計処理について書かれているが、それを元にして、情報提供先である投資家や証券アナリストがどの様な分析を行っているのかについては書かれていない。現代の会計の目的は、財務諸表を読んだ人々が意思決定を行なうのに有用な情報を提供することにあるのだが、その意思決定がどの様に行なわれているのかを知らなくては、本当の意味で有用な会計処理は出来ない。
こちらもファイナンスのテキスト(ブリーリー&マイヤーズなど)を読めばいいのだが、会計では見慣れない妙な数式が登場したりして取っ付きにくい。
本書「企業分析入門」は、そうした「会計のことが良くわからないファイナンス担当者」と、「ファイナンスのことが良くわからない会計担当者」の双方に役に立つ、いわばファイナンスと会計の掛け橋ともいうべき本である。
特に第2版では、冒頭で資産、負債、費用などの財務諸表の構成要素ごとに分析すべき項目を挙げ、企業分析を行なう際に注目すべき会計情報に的を絞って解説している。個々の項目はさほど詳しくないが、これを足がかりにして会計の本を読めば、財務諸表が何を表しており、同時に何を表していないのかについて分る様になるだろう。
「入門」とある通り、書かれた内容はさほど高度ではないものの、ファイナンス、会計双方に通じる良書であることは間違いない。