――「いい研究」の定義、「いい文章」の定義には、それぞれ2つのキーワードがある。研究の場合は、「意義があると思える」と「たくみに迫る」であり、文章の場合は、「説得的に」であり、「わかりやすく」である――。
本書は、一橋大学の有名教授、伊丹敬之による論文作成のための心得集である。単なる文章作成マニュアルに終わるのではなく、論理的に正しい論文とは何か、読み手を正しく導くための注意点は何かを、生徒たちとの議論を交えながら説いている。
本書の約半分を占める生徒たちとの対話では、生徒たちの自省を通して、書き手が陥りやすいワナを見事に指摘している。少数のアメリカ企業を取り上げて一般化してしまう、つながっていないのに文章でごまかしてつなげる、などの例を読んで反省する人も多いのではないだろうか。
もう半分の「概論編」では、研究のしかたと文章の書き方を指南している。全体的に、正しい論理構成やデータの扱い、仮説の検証などに紙数が費やされており、長い目で見れば、手っ取り早い文章マニュアルよりも役に立つ。
文章術に関しては、明確な書き方は示されていないが、「アウトラインを準備する」「『構造』あるいは『流れ』で(文章の)つなぎを作る」といったアドバイスは、書き手にとって有益だろう。社会科学の研究に携わる研究者やビジネスパーソンに、ぜひおすすめしたい1冊である。(土井英司)
はじめて論文を書く人には役に立つと思います
★★★☆☆
やや説教くさいですが、
はじめて論文を書く人は一読することをお勧めします。
論文執筆に際しての心構えが参考になることと思います。
ただ、具体的な手法や方法論を求めている人には
あまり役に立たないかもしれません。
面白いし、有益です。学生諸君にぜひ。
★★★★★
ハーシュマンの訳本の「あとがき」の中で、ふれられていたので
買ってみました。
研究の仕方、テーマ、書き方、について、院生の皆さんとの対話も
まじえて、ご自分の方法を開示された本です。
当方は、今のところ書くあてはないので、読むだけなのですが、いろ
いろと学ぶところが多い本です。
ランダムにメモ書きをすると、次のよう。
1)日米の自動車生産台数の60年間のグラフを見て、違いを考えて
みた。
2)事実の知識と理論の知識がアンバランスでもよい。
3)自分のやってきたことをより広い地図の中で位置付けてみる。
4)研究のテーマは、既成の理論と理論を関連付けるのでもよい、新し
い知る必要のある事実を発見することでも、従来不思議に思われた現
象の説明論理の発見でもよい。
5)現実から出発すること。現実は論理的だからである。
6)アマチュアは自分のために書き、プロは他人のために書く。
7)仮説を育てる。
8)ハーシュマンの論文は、現実からどういう概念をつくったか、どの
ような仮説を作るに至ったかがわかるようになっている。
9)「退出」と「発言」の2つの概念で、いろんな現象が理解できる。
という具合である。
研究者としてのバイブル
★★★★★
社会科学系統の論文を書く院生や研究者向きに書かれたものです。 論文を書く上での中核部分となるであろう事柄についても触れられています。 論文の書き方に留まらず、研究の仕方ないし文書を書く事、考えるという事、勉強するという事まで展開されています。
「自分を広げようとするな、自分は何の一部であるかを考えよ」
オーソドックスであるが・・・
★★★★★
社会科学における研究の進め方、アイディアの育て方、論文の書き方が
極めてオーソドックスに書かれている。
しかし今の大学や大学院でこのようなことがきちんと教えられているか?
教えられているとしても断片だけだろう。
大学院生のみならず、研究が煮詰まって身動きができなくなった研究者が
アイディア得るため、あるいは研究の根本に立ち戻るために読むと
一歩前進できるのではないかと思われる。
以下に印象に残った記述を引用しよう。
「論文の書き方とか研究の仕方とかということを学びたいという人には、
私は、文章が論理をドライブしてくれるような文章を書いていると思える
人の本を読むことを勧めますよ。・・・論理的にいろいろ書かなければいけない
という時に、全部の論理をいちいち自分で考えて、・・・自分が頭の中で
ドライブしなければいけないとなると、全部考えなければ
いけないでしょう。とてもやっていられないんだよね。ところが、文章が
勝手にドライブしていってくれると、言ってみれば、半分は指がかいてく
れている、ということになるわけです」(p86)
「何か思いついたら、とにかく理論でゴリゴリ考えろ、一〇日か一週間あれば、
何か結論が出てくるでしょう。それまでまずやっちゃうんですと。他人の論文
なんか読んでは駄目」(p111)
「「自分を広げようとするな、自分は何の一部であるかを考えよ。」と
おそらくまとめられうだろう。つまり、自分の研究結果はさらにここにも
広がることができる、あそこにも広がりうると希望的に観測して主張する
のではなく、自分は実は、より大きな何者の一部であったかを振り返って
考えることによって、何に広がることができるかのヒントを得る、提供する」(p235)
論文というものについての考え方を教えてくれる。
★★★★★
書き方の作法についての本ではない。論文を書く以前の、研究にたいする姿勢、論文を書く意味も含めて、論文を書く行為そのものの本質を考えさせてくれる本。