人ごとではない、アフリカ問題。
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環境をテーマにしていますが、単にエコロジーに関することだけではなく、広義にアフリカ大陸の地理・地形、背景となる歴史、動植物の保護、貧困にあえぐ庶民の暮らし(衣食住、飢餓、病気、風習)、資源、行政、腐敗政治、国際支援のあり方といった幅広い話題を展開しています。
アフリカをテーマに様々な緊急問題を提起したものであり、それらを裏付ける具体的な数値データとともに、まずはグロスで課題を発掘するものです。
新書ですが、読み応えは十分にあり、アフリカが抱える複雑な諸問題に対して、地球規模に亘る問題意識を高め、強い思いで考えさせられます。
混沌からひとつの事象がトリガーとなり、それがスパイラルに絡み合いつつ、どんどんと深みにはまり込んでしまうという悪循環を繰り返すというものの流れを強く感じます。
根源は、先進国がアフリカに介入したことにより、近代文化を継承するナレッジを急速に提供し、そのことによりマズローの法則にあるがごとく、様々な欲求が生まれたように感じます。
そういった煩悩により、格差が生じ、利権が幅を利かせる一方で、それを照らし合わせてみようとする行為により、悪い方へと向かうという終端の見えないトンネルに入り込んでしまっているようです。
自助自立でゆっくりとした時間をかけて国民の平均的な成長を促しながら、国が成り立てば、高度経済成長へと向かっていったのかもしれません。
先進国がアフリカの脅威による影響を受けることに気が付いて、援助という形で介入しても、それは、援助という”見栄えのふり”をしているだけで、必ずしも”真”の援助ではないということが本書を通じてよく理解できます。
タイトルにある”キリマンジャロの雪が消えていく ”・・・それは、なぜか。
どうしてそういう現象が起きるのかということをよく考えなければならない。
アフリカは日本から遠く離れた大陸だから大丈夫であるというのでは済まされない。
砂漠化が進めば森林が減り酸素が減る、酸性雨、地球温暖化を加速することにより様々な影響、食糧の自給率40%では海外依存が高いがそれらは汚染されていないか、ウィルスによる不治の病気蔓延、害虫発生、海賊などの犯罪行為、利権争いなどなど、今まさしく、人類が一丸となって考えるべく緊急課題だということがよく分かります。
先進国の援助が逆の結果を産んできた
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日本以外の国についての概況の本を他にも読んできたけど、同書を読んだときほど、日本人でよかったと感想を持てることはなかった。
餓死することも、マラリアに感染することも、強制労働もないわけだし。
アフリカって国はって言われたら、資源が最初に来て次は車。
ランドなんか通貨もそう。
はっきりいて、資源や市場といった利益対象でしか見ていなかった。
同書を読んで、アフリカの悲惨な現状を知った。
先進国のしてきた援助が実際は逆の結果を産んできた。
例えば、エチオピアでは小麦の援助が行われてきたが、小麦は高熱でないと調理ができないので、そのために樹木が伐採される。
1940年代では国土に占める森林の割合が40%以上占めていたが、1960年に16%を割って現在では4%から2%ほどしかないという。
エチオピアは、国民の46%が栄養不足で毎年25万人の子どもが餓死している。
井戸を掘るとそこに移民が住み着くのだがその際に家畜によって砂漠化が進む。
砂漠化の原因の86%が人的要因でその56%が過放牧によるもの。
ヤギが飼われることが多い。ヤギは家畜の中でもっとも水不足に強いからだ。
しかし、ヤギは草を根から食べるため再生ができなくなる。
じゃあ何をすればいいのか?という話がだが10人の専門家で10通りの意見が出るほど決定打がない。それほど、アフリカの援助というのは難しい。
統計的観点からもアフリカの希望のなさはどう仕様も無いのがわかってくる。
ちなみに今度行われる、南アフリカでは10万人あたりの交通事故車が28人と世界2位で死亡原因のトップになっているそうだ。
ソマリアの「海賊」問題の背景に関する説明も必読。
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タイトルからすると温暖化などの自然環境の問題を論じているような印象を抱かれるかもしれないが、本書は単なる「環境報告」ではなく、自然破壊・生態系破壊の問題と、アフリカ各国の社会・政治の問題が複雑に絡み合い、相互に作用する現状を見事に描き出したものである。同著者による岩波新書『地球環境報告』『地球環境報告2』を読んだときもそうだったが著者による「報告」の内容には相変わらず戦慄を禁じえない。現状の「報告」にとどまり、明確な処方箋が提示されるわけではないことも絶望感を促進する一つの理由であろう。
本書が示すようにアフリカの問題はあまりにも深刻だ。温暖化、人口増加、土地不足、農村から都市への大量流入とスラムの形成、干ばつと洪水、天然資源を巡る紛争、資金源や食料として乱獲される野生動物の危機的状況、森林破壊や土地の酷使が促進する砂漠化・・・。問題がさらなる問題を呼び込み、相互に促進しあうようなこの悪循環をどう断ち切ればいいのだろうか?著者は本書の「あとがき」において、「貧困や環境破壊の大波に翻弄されるアフリカを救い出す特効薬は、これまでのところ、見つかっていない。たぶん、そうしたものはないのだろう。」とまで言う。おそらく著者の仕事は、安易な処方箋を出すことではなく、アフリカの問題の深刻さを示し、危機感を共有させることにあるのだろう。安易な処方箋は危機感を損なうばかりか、実際に本書の各所に紹介されている事例のように、さらなる問題を引き起こしてきたのである。
著者のアフリカへの思いに感じ入るとともに、本書ができるだけ多くの人に読まれ、今日のアフリカの深刻さを認識し、危機感を共有することを願ってやまない。
25%削減目標は正しい
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本書を読めば、人類生存のために温室効果ガス(特にCO2)の25%削減の目標が高すぎるなどと言っておれないことは明確だ。サンゴ礁の死滅率を見よ。生態系が急速に破壊されているのが眼に見えるようだ。
人類がこの生態系に属していない、或いは影響は少ない、などという傲慢な考えは直ちに捨てて謙虚にならなければならない。
化石資源が諸悪の根源(これは極端な言い方であるが)とすれば、これの使用をドラスティックに減らすことが急務である。
例えば、狭い日本に自動車はこんなに必要ですか?業務用以外所有禁止とまでは言いませんが、最大1世帯に1台に制限するとか、極めて容易な施策があるでしょう。
アフリカを知り尽くした、元ザンビア大使の待望の書。
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「『アフリカ』を語るとき、どうしても〈愛〉と〈憎〉がない交ぜになった複雑な感情がこもる。」
本の構成は次のようになっています。
まえがき
第1章 アフリカの豊かな自然
第2章 キリマンジャロの雪が消えていく
第3章 人口増加という名の時限爆弾
第4章 都市の二つの顔
第5章 干ばつか洪水か
第6章 呪われた天然資源
第7章 ブッシュミートと霊長類の危機
第8章 大西洋をわたるサハラ砂塵
第9章 カギをにぎる農業
第10章 どうするアフリカの環境
あとがき
「キリマンジャロの雪」の消滅は「地球温暖化説」、「急激な乾燥化」、「森林が開墾のために焼かれ」熱せられた空気の上昇、などが考えられているそうだ。
また、アフリカの豊かな天然資源が一部の政治的腐敗を招き、貧富の格差を拡大し、利権の奪い合いから紛争を誘発しているという。「現場に届かない援助」やソマリアの「海賊行為」は外国船による魚の略奪と汚染を守るために自力で外国漁船を追い払うために漁民が武装したことが背景にあったなど、駐アフリカ大使でないと分かり得ない物事の本質が鋭い切り口で述べられている。
石先生ほど、アフリカを愛しアフリカの為に働かれた日本人はいないと思う。「あとがき」に「これがアフリカに関する最後の著作になると思う。」と述べられていた。願わくは、いつまでもお元気でアフリカと日本のためにご活躍いただけることを思ってやみません。