心を掻き乱す小説たち
★★★★★
現代の若者たちがほぼ、通り過ぎる葛藤だろう。
主人公アルマンは時間を持て余した青年であり、娼婦マルグリットは心を持て余した女である。この二人が恋に落ちれば想像はできるだろう。
お互いをむさぼり合い、心をすり減らしていき、慰めあいと言っていい恋愛模様にかわっていく。
それでも、事実。彼らは幸せだった。
最後の時を遂げるまで、その幸せは離れなかった。
心を持て余した女は、その男の純粋な恋心にやっと居場所を見出せたのだ。
この本を読む事で、過去の恋愛を悔やみ、自分を責める事になるかもしれない。
大事な人が側に居るのなら、さらに深く愛し合えるかもしれない。
わたしは、この本を読む事が皆の通過点であってほしいと思っている。
心理描写の妙
★★★★☆
高級娼婦のマルグリット(椿姫)が、アルマンと出会うことにより、それまでの虚飾の生活を離れ誠実な愛の世界に生きようとする物語です。
アルマンの中にマルグリットが見たもの、それは「あなたはじぶんのためではなく、あたしのためにあたしを愛してくれるから」と言う、まさに打算のない愛情です。
それに対して、彼女もまた純粋で打算のない愛情で返そうとします。
こうした「純愛」の期間が半年続きますが、彼らを取り巻く社会は、そうした社会から隔絶した二人の生活を許しません。
そして、別れがやってくるのですが、マルグリットにとっては、アルマンの存在自体が「幸福」で、前の生活に戻っても意識は全く違うものになっています。
彼女がアルマンとの半年で得たものは、単なる「幸福」な生活を過ごしたと言うことではなく、一つ高い精神レベルに人間として高みに至ったと言うことでしょう。
一方のアルマンは、マルグリットのようにはなかなか考えられず、嫉妬心を抱いてなかなか自分に正直になれません。
このあたりの二人の心理描写が素晴らしく、単なるラブ・ストーリーに脱しておらず、現在まで名作として残っている所以でしょう。