自分でフィールドワークをする人向き
★☆☆☆☆
私は本書をタイトルから、今まで「あたりまえ」とされていたことに疑義を挟む、と言った内容のものと思っていたのだが、そうではない。フィールドワークの方法についての著作である。
著者おすすめの文献がいくつか登場し、そこからの引用が非常に多い。おかげで、その文献の内容は大ざっぱに理解できてしまうが、著者がそれで何を指摘したかったのかが整理されていない。
著作のフィールドワーク実体験も結構紹介されているが、これもどこがポイントなのかよく判らない。
最後の方になって、ようやくタイトルにある「あたりまえ」が出てきて、いかに主題と関係ないことを読まされてきたかがわかる。
少なくとも、自分でフィールドワークをしない人にとっては、読む価値のない著作である。
現場感覚をリアルに伝える良書
★★★★★
本書は質的調査を行なう者、社会学の質的調査を今現在学んでいる学生のみ
ならず、マス・メディアなどの報道に関わる人間でもいいし、自分の興味か
らいろいろと調べて歩くという趣味を持った人でもいい、またマーケティン
グ調査などで実践的な関心から調査に取り組んでいる者も含めて、このよう
な人にとって非常に参考となる1冊といえる。
本書「はじめに」の言葉を引用する。
「調査技法や方法論でもない。質的なデータの収集方法や加工法でもない。
(中略)<ひと>が生きていることへ向かう“まなざし”。それが何なのか
を考え、問い直し、自分なりの“まなざし”を創造できるような感覚。」
これを育てるあるいは鍛えるための助けとなるように本書は書かれている。
前半は「はいりこむ」「あるものになる」「聞き取る」「語りだす」といった
調査過程別(またはフィールドの性格別)に具体的な例を出しながら「調査者
とは」といった点に焦点が当たる。ここは、フィールドワークという実践を行
なう上で、調査者の困難や苦悩が描かれる。どのように被調査者に近づくか、
いかに被調査者と向き合うかといったことである。質的データの収集方法や加
工法、調査技法や方法論を解説している本ではなかなかみることのない内容で
ある。質的調査の現場感覚をリアリティのある形で感じることができた。
そして、後半の「『あたりまえ』を疑う」「『普通である』ことに居直らない」
では、質的調査を行なう上でどのような点が「気付き」となりうるのか解説し
てくれている。「気付き」というのは質的調査のなかで問題意識に「気付く」
ことを指し、既存の枠組みを当てはめるわけではない質的調査には欠くべから
ざるものだ。様々な「気付き」の紹介を通して読者のセンスを刺激するという
狙いがあったように思う。
本書は体系的に質的調査を学ぶためのテキストとはいえない。しかし、質的調
査を学ぶものにとって大切な1冊であることは間違いない。「質的調査」のノ
ウハウともいえる部分をなんとか伝えようとした実践の書である。
著者をはじめとする研究者が被調査者と関わっていくなかでどのような苦悩を
感じてきたのか、被調査者への共感や感情移入のなかでなぜ心を揺さぶられた
のか、読んでいると引き込まれた。
フィールドワークのこころがまえやかんがえかた
★★★★☆
社会学ではフィールドワークが欠かせないが,社会学や社会調査などの本は調査の技術にかたよりがちである.著者がこの本でつたえたいのは技術でなく,フィールドワークのこころがまえやかんがえかたである.社会学者でなくてもフィールドワークやアンケートなどの調査が必要になる機会があるだろう.そういうとき,この本が参考になるのではないだろうか.また,これは「おもてなし」のこころにも通じているようにおもう.
質的社会調査法のテキストではありません
★★★☆☆
もしも、「量的調査」とは異なる「質的調査」の手法について分かりやすく説明した社会学のテキストを求めているのであれば、他の文献を探した方が良いと思う。エスノメソドロジーという手法に関心を持ち、それに基づく調査の現場を知りたいというのであれば話は別だが。私は前者だったので、読んでいて少々辛かった。著者の文章は分かりやすく面白かったけど、結局内容をまとめると、著者にとっての「質的調査」というのは、「社会的少数派」に属する人々の言説をすくい上げるための手法なのだということなのかなと思う。
質的ということの困難
★★★★★
現在の社会学がどこまで科学なのかは私は知らない。
ただ、社会という複雑系を相手にしているだけに、かなりの困難が立ちはだかっているのだろう、という想像はつく。
「あるものになる」という切り口での質的調査の説明で大衆芸能の一座に入り込んだ調査事例を挙げているが、興味深く、共感し、またおかしくて吹き出してしまった。
社会というものに対する真摯な姿勢が感じられる良書です。