インターネットデパート - 取扱い商品数1000万点以上の通販サイト。送料無料商品も多数あります。

高い城の男 (ハヤカワ文庫 SF 568)

価格: ¥945
カテゴリ: 文庫
ブランド: 早川書房
Amazon.co.jpで確認
1962年に書かれた長編小説。ディック中期の傑作。
フィクション世界が現実に浸入する、驚くべき感覚 ★★★★★
第二次世界大戦でドイツと日本が勝利したアナザーワールドが舞台のサイエンスフィクション。
暴力の気配に満ちた不安な世界を描くストーリーも抜群に面白いが、なんといっても最大のポイントは、
この世界で、ドイツと日本が負けた世界を舞台にした小説がベストセラーになっている、という、
一種の入れ子構造を作り出したこと。

主人公の女性は小説の作者に出会うためにドイツと日本に分割統治されたアメリカを旅する。
終盤に作者に出会い、小説の真意を確かめるべく、易経で卦を立てる。
そこで明らかになる驚くべき真実とは。。

ここで読者は、まるでフィクション中の人物がこちらの現実世界に浸透してくるような、驚くべき
感覚を感じることであろう。これまで積み重ねられてきたストーリーがすべてこの感覚に集約される。
一種の文学的特異点と読んで差支えない。
この不思議な感触、活字ならではのものであろうし、本を愛するすべての人に味わってほしい。

なお本書は易経を使って書かれた、と、まことしやかな説明がつく。とはいえこれほど高い完成度の小説が、
偶然の積み重ねで出来上がるとは思えない。作者P・K・ディックの韜晦であろう。
だが、現実と小説世界、さらに小説の中の小説の世界、という三重の世界を繋ぐ普遍的真実として、
易経はなくてはならないアイテムであることがよくわかる。そしてその真実は我々の現実世界の
存在すら危うく感じさせてしまうほどの、恐るべき問いを投げかけてくる。
このような構造を考えだした作者の才能にただ慄然とする。

P・K・ディックの小説はどれも文学性が高いが、本書は手法とテーマが見事な融合を見せ、
とりわけ完成度の高いものだと感じる。サイエンスフィクションの範疇でくくってしまうのは
あまりにもったいない、小説史上に残る傑作だと思う。
現実と虚妄の○○した世界 ★★★★★
新しいカバーの版が出ていたので、改めて買いました。昔はオチがよく理解できなかったのですが、我々の生きる現実の世界に、自己認識と世界(世間)とのずれを感じるようになって来て、この小説の言わんとするところが(恐ろしいことに)解かってきたように思います。フィリップ.K.ディックは常にそうした不安感を抱えて生きていたのでしょうか?精神病的なのは自分自身なのか世界なのか...まるでディックの描く悪夢のような現世界に私も不安で一杯ですが、"高い城の男"が言うように"それ"(ネタバレ秘匿)はあり得ることなのでしょう。ミリタリーテイストのカバーが示すように日独の対立構造が基本の"この世界"なのですが、その手のマニア諸氏の感性をくすぐるような小道具(メッサーシュミットE9ロケット船、航空母艦翔鶴、エルアラメインの戦い)なども出てきて読むにつれて"この世界"に引き込まれて行きます。「流れよわが涙・・・」や、「電気羊・・・」も同傾向の作品ですが、この作品が一番の大仕掛けで読み応えがあると思います。「逆回りの世界」も改版/カバー替え(できれば新訳/改訳)して再販して欲しいですね☆
設定は面白いけど ★★★☆☆
 今我々が生きている世界とは別の世界を、「易」によってつなげる。そしてその別世界(第二次大戦で枢軸側が勝ったという設定の世界)から、我々の世界(連合国が勝った世界)をうかがい知る。
 今ではこういうパラレルワールドの物語は珍しくもなかったけど、それはこういう先鞭をつけた作家たちがいたからこその話です。本作はその意味で歴史的にも重要でしょう。
 SFというには、科学的なネタが少なく、SFらしからぬ作品とも言えます。そもそも「易」を使うというのが、いかにもベトナム戦争のアメリカで蔓延した東洋趣味の先駆といった感じです。
 ともかく、設定の斬新さは良い。しかしあともう少し「押し」が足りないと感じます。本当に凄い作品は、力がみなぎっているものです。何か、純文学的な詩性も足りないし、プロットの綿密さも足りないような。
 もっとも、本作は既に発表されてから40年以上経っています。ある程度の風化もやむをえないかも知れません。それに日本人にとっては海外の作品だし。
 科学ネタが少ない分、文系人間でも容易に読み通せるのはいいところです。
 ただ、歴史を見る視点が偏っていないかというと、怪しいところがあります。ドイツのことを悪魔的に扱いすぎなんじゃないか。そのわりに日本は贔屓目で見られているから。
 
もう1つの戦後 ★★★★☆
 本小説は、日本・ドイツ・イタリアの枢軸同盟が勝利した仮想世界を描く。その作中において重要な役割を果たす『イナゴ身重く横たわる』は「もし英米が勝利したら〜」という仮定に基づいて書かれた小説である。

 幾つかの流れが、この小説を彩っている。政権交代に伴うドイツ国内の政治的混乱が高まる中、どうにか政治的破局を回避しようとする良識的ドイツ人、新しいアメリカ的価値を作り出そうとするユダヤ人、その価値を広める重要性に気づくアメリカ人男性、『イナゴ身重く横たわる』の作者に危険を知らせようとするアメリカ人女性、そして人間として大きく成長しようとする日本人。

 作者ディックは作中、『イナゴ身重く横たわる』には「真理」が含まれていると、登場人物に語らせる。その「真理」に触れた登場人物たちは、自らの信念に基づいて自分の信じる道を歩んでいく。破滅的な世界の中(ディックの描くナチス支配下のアフリカやソヴィエト・ロシア)で、ディックは(ナチズムを信じる人々以外の)人間の良識を信じようとする。

 SF作品は数多くあるけれども、反実仮想をその小説の現実として描き、現実に起こった出来事を「仮想世界」としてその小説の中で描いた書籍を、私は初めて読んだ。そういう意味で私はそのコンセプト自体がユニークだと考えている。

イナゴ身重く横たわる ★★★★★
もし第2次世界大戦で枢軸国側が勝っていたらという設定のパラレル・ワールドを舞台にしたP.K.ディックの代表作。設定はどうであれ、作者の関心は常に社会のあり方、その中での人間模様、表面的な欺瞞の裏に隠された真実にあり、本作ではそれらが遺憾なく描かれている。作中で、「もし連合国側が勝っていたら」という設定(史実に近いが微妙に異なる)の小説が登場し、「高い城」はその小説家が立て篭もっている場所を指す。レビュー・タイトルはその小説の名前である(聖書からの引用)。

作中作で描かれる世界もかなり醜いもので、戦争にどちらが勝とうが、作者が物質中心の世界に希望を見い出せないでいる事が分かる。その代わり精神性を重視している点が目立つ。戦勝国のドイツと日本の描写を比較すると、ドイツの政治家が醜悪に描かれるのに対し、日本人の精神性の高さが評価されている。面映い程である。特に領事の田上の武士道的精神性は殊更強調されており、作者をして「私の願いは田上氏がいつまでも記憶に残ることだ」と言わしめている。作者が、易経、禅、伊万里焼など日本、中国の研究を良くしているのにも驚かされる。そして、ユダヤ人が作ったオリジナルの装飾品に新しい世界の創造の光を見る辺り印象的である。それにしても、作中に出て来る次の短歌は英語でどうやって表現したのだろうか ?
「ホトトギス鳴きつる方を眺むればただ有明の月ぞ残れる」

もう"SF"という冠がいらない程の、物質社会への批判と精神性・創造性の重要さを説いた傑作。