他者の視線を意識して、他者の期待に沿うように、自己を創り変えようとするのは人間だけ。
★★★☆☆
脳神経学者のエッセイとして読めば、それなりに読めますが、それも著者の専門分野である神経学や行動学の知識が生かされている3章くらいまでで、その先の4章、5章には、見るべきものがありません。その先の寄稿論文はなかなか面白いですが、最後の座談会は中味が薄いです。この本がどういう経緯で書かれたかを推測する資料としては面白いですが。
3章までと寄稿論文から印象に残ったことをまとめると
1 化粧する脳
動物の中で鏡に興味を持ち続け、鏡を常用するのは人間だけである。つまり、人間だけが他者の視線を意識して、他者の期待に沿うように、自己を改変しようとする。その典型的な例が化粧である。化粧顔を認知しているときの脳画像の研究から、人は他者の化粧にはあまり関心を払わないが、自身の化粧は、それによって自己認識が変化するくらい大きな意味をもつことがわかった。さらに、化粧するという行為自体が、脳の報酬系を刺激するわくわくする行為であるようだ。
2 アルファーメイルとトロフィーワイフ
ヒトのアルファーメイルと雌にもてる雄は一致しない。したがってヒトのアルファーメイルはひたすら同姓間の競争に打ち勝って、選択権を獲得し、トロフィーワイフを娶るしかない。その例として著者は豊臣秀吉を上げている。
2の主張には、疑問を感じる。
アルファーメイルともてる雄の不一致は、文明化によって生じたのではないだろうか。確かに豊臣秀吉はもてるとは思えないが、文明化される以前の人間の群れでアルファーメイルになれたとも思えない。豊臣秀吉は、確かに有能な武将かもしれないが、純粋に身体能力がものをいう格闘に勝てたとも思えない。女性は身体能力が高い男性を好む。スポーツ選手がもてることを考えれば明らかだ。
だから、もてたいのであれば、女が美しい女を目指すように、強い男を目指せばよいだけの話ではないのか。身体能力の改変は、顔の造作の改変よりはたやすいと思うが。
茂木ではなく院生の作品。
★★★☆☆
化粧する心理について、男子でも分かりやすく書いてある。
さすが化粧品について造詣が深い女子とカネボウの共同研究の成果だと納得する。
しかし、内容の大半は、「研究発表」であり「心理学」であるとおもう。
茂木さんの文章力で「脳科学」っぽく仕上がっているが。
殆どの文章は彼女が書いたものだし。
茂木健一郎の名前は書に目をとめて貰うための、広告だったと思う。
女子の心理に興味のある男子はよんむべきと思う。
化粧で培われた能力を言動や、文化の領域まで押し広げていく必要がある。
★★★☆☆
化粧をしている脳の中ではドーパミンが放出されているのだが、
人間にはその快楽を再び得ようとドーパミンが放出された直前の行動を
強化する能力が備わっているので、どんどん化粧がうまく、
楽しくなっていくのだという。
ただ、そうして外見を取り繕うことばかりがうまくなっても
使う言葉や行動に化粧をしないのではやはり魅力に欠ける。
人間の脳がいちばん喜びを感じるのは他者とのコミュニケーションであり
コミュニケーションの要として自分を魅力的にみせるために
きれいに化粧をするのはいいことであるが、
言葉や行動もそれに伴うように化粧できるようになっていってほしい。
それでこそコミュニケーションは円滑になり
脳がさらによろこびを感じられるようになるのではないかと思う。
余談だが、本書に収められている恩蔵絢子氏の文献の中に出てくる
ジェームスタレル氏の光の館に、私も宿泊したことがあるが
自分が汚く感じたなどということは微塵も思わなかったので
論文を読んで光の館のイメージが悪くならないように願っている。
本格的な「脳科学書」というよりは、「心理学」に近いのかも
★★★☆☆
まず、この本は本格的な脳科学の専門書を期待して読むものではありません。
著者がこの本をどのような位置づけにしようとしているのかはわかりませんが、脳科学どころか理数系科目自体苦手な私ですら何とか読めてしまうほどですから、小難しい専門用語が連発するようなものではありません(それなりに専門用語も出てきますが、読むのに支障が出てくるほどではありませんでした)。
また、タイトルが「化粧する脳」であり、化粧が脳にどのような影響を及ぼすかというのがメインテーマですが、それのみならず「外見が脳に及ぼす影響」全般を取り扱っている印象があります。ただ、脳に及ぼす影響と言っても、「具体的にどのような行動(考え方)に結びつくか」というような内容で、どちらかというと「心理学」に近い印象がありました(後半で寄稿されている恩蔵氏の論文の方が、「脳のどの部分に影響を及ぼすか」というように、「脳科学」と呼べるものだったかも。とはいえ、典型的文系人間の私が読める程度ですから本格的な内容ではないのでしょうが)。
そんな内容ですから、私には非常に読みやすかったです。自分が普段あたり前のようにしている「化粧」について、自分に与えている影響など、この本を読まなければあらためて考えることはなかったでしょうから。
ただ、「化粧は女性特有のもの」「女性は共感能力が高い」など、確かに一般的にはそうであっても現代の日本では「例外」も増えつつあるものも多々あり(例えば「化粧する男子」や、「人と競争し、勝つことが生きがいな女子」など)、その点で「人それぞれだけど」ですませるのではなく、少しでいいので「例外」にも言及して欲しかったなと思いました。
読みやすいだけに、薄い
★★☆☆☆
シンプルで読みやすかったのです。が、何度も同じことが述べられていることや、ときどき、専門用語(メタ認知とか)がでてきて、科学の雰囲気が醸されているのが、鼻につきました。読者として、どういった人を想定して書かれたのでしょうか。一般向け教養書的内容と思うのですが、それにしては専門用語についての解説はないし、専門家が呼んだら物足りないでしょうし。寄稿された論文の前置きにしては長いし。