本書の大きな特徴として、以下の3点を挙げることができる。先ず、楕円関数の理論が、計算を含めて非常に詳しく丁寧に解説されていること。次に、Jacobiの楕円関数とその周期や加法公式などが、テータ関数を経由して巧みに導かれており、「テータ関数」の理論のステキな入門書になっていること。最後に、楕円関数の応用として、算術幾何平均と楕円積分の周期との相互関係、及び楕円関数と5次方程式の解法との関連、などの興味深い話題が詳しく解説されていることである。
私見ではあるが、本書のハイライトは、テータ関数に関する「Riemannのテータ関係式」と「Jacobiの変換公式」、及び4.7節に述べられている楕円積分の周期の解説にあると思う。特に、4.7節に述べられている楕円積分のモジュラスkでの微分計算、及び4つの楕円積分の間に成立する「Legendreの関係式」の証明はまことに素晴らしく、間違いなく本書の一つの頂点に位置すると思う。
本書の平易で丁寧な記述は、この理論を初めて学ばれる方でも、そのかなり高度な内容をフォローする事を可能にしている。平易な記述ながら豊富で充実した内容という両立が難しい要求を見事に満たしている本書は、楕円関数論の現代の名著と言うに相応しい。