王族と石油。
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サウジアラビアというと王族と石油。
ほかにはないのだろうか。
サッカーなどで「中東の笛」と呼ばれるものに対する切込みがほしい。
気候風土、部族社会、倫理観、生活、風習などがわからないと見えてこない。
問題が山積すると同時に、変化の真っ只中にある国とどう向き合うか
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日本で記される書籍は護教の立場からもっぱら反米論を唱えるだけで、逆にイスラム世界の内情が見えにくくなるものが多いのですが、本書はサウジという典型的イスラム国家の現状や変化を克明に記しており、数多い愚本にはない読み応えがあります。
イスラム世界の多くの国と同様、この国でも問題が山積していますが、最大の問題はやはり、石油依存経済の限界でしょう。分配国家を標榜し、GDPを10年で20倍に膨らましたものの、人口の激増が個人のGDP半減と失業増加につながり、補助金ばら撒きで非石油産業が育たない一方で既得権が肥大化し、民営化も外資導入も骨抜きにされてしまう。特にサウジ人化政策が進まず、若者が技術や技能を習得しないのはもはや国家の将来に対して致命的と言えますが、この原因を遡るとさらに別の問題が浮かび上がります。
それが教育の問題。識字率や小学校以後の進学率が余りに低く、小学校時代からユダヤ人陰謀論やらジハードを強調して異教徒敵視型の教育が行われるのはもはや病的と言う他ありませんが、こうした教育の異常さが他のあらゆる問題、政治改革の停滞、女性やシーア派の迫害、国際テロ等に結び付いてしまうのはまさに必然的だと言えます。
こうして問題だけを列挙すると、この国はお先真っ暗と思えそうですが、一方で改革連合による建白書が提出され、ワタン紙によって宗教界への批判が為され、女性たちが運転デモを行う等の、変化の兆しも見逃す事はできません。特に触れるのはタブーとされていた教育界や宗教界に官民からメスが加えられた事は、この国が確実に新しい時代に入った事を印象付けるものです。この国の未来は世界にとって死活問題ですが、日本人にとって、変化の真っ只中にいるサウジでどのような人と、どのような関わり方ができるのか。仕事や旅行でサウジの人たちと関わる全ての人に、本書は真っ先にお薦めしたい1冊です。
初心者にはありがたい包括的な1冊
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石油産業に過大に頼っているサウジアラビアという国が抱える問題、どうしてイスラム過激派がこの国から多く出てくるのか、がとてもよく分かる良い本。宗教と政治、そして王族のバランスの危うさ、人口の急激な増加(1970年代には出生率が7.5だったという。2005年でも4.5で、人口の半分以上が 20歳以下)と失業率の増加(高いドロップアウト率と低い識字率にも起因)、宗教に極端に偏った教育(キリスト教やユダヤ教=「啓典の民」と呼ばれ、一般的なイスラムの教えではイスラムに近い特別な位置にある、のみならず同じイスラム教であるシーア派すら異端であると教え、ジハード=聖戦の対象になる)とアメリカ軍(=異教徒)駐留の受け入れ問題、そして衝撃だった9・11(首謀者はもちろん、実行犯19人中15人がサウジアラビア人だった)とその後のアメリカや諸外国との外交問題など、サウジアラビアの抱える問題が一通り取り上げられている。そして、単に現状の批判にとどまらず、現在の動きや今後の考えられる方向性についても触れられているのがとても良い。もちろん、サウジアラビアについて詳しく知っている人にとっては物足りないだろうけれど、私のような初心者にはとてもありがたい包括的な本だった。そして、日頃は当然のものとして享受している沢山の権利は、実は「当然」ではないことを改めて思い知らされた。教育の大切さ、人権について、色々考える良いきっかけになった。
よくできたサウジアラビア紹介書
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ごく一般的な日本人にとって、サウジアラビアについて知っているのは地名・人名といった名前と石油というのがせいぜいのところではないだろうか。中東の大国であるこの国の歴史や人々の生活、あるいは政治・経済・教育について、また社会の変革に向けた動きについて、私たちはどれほどのことを知っているだろうか。
そのような日本社会にあって、サウジアラビア在住経験が豊富でアラビア語にも堪能と思しき著者の手になるこの本は、たいへん貴重な内容を持っている。新書という制限にあって書ききれなかったトピックスが膨大なものであることは想像に難くないが、ここに書かれている事項で日本人にとって陳腐なものはほとんどないように見受けられる。
実に読み甲斐のある、貴重な一冊であろう。
新書1冊でサウジの歴史・王政・社会問題を網羅
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本文238ページと多すぎも少なすぎもしない分量の内に、抑えるべき事柄が抑えられている。
特に人口・教育問題と国内の民主化運動の経緯と現状についての概観(この先も容易には変わらないよ、って見通しもちゃんとついている)は、今後の同国の流れを把握するのに便利。なぜ国内でテロが起きるのかも解る仕組みになっている。
油価の高騰によって社会変革がどこまで進展するか、是非とも年1回の改訂でフォローして頂きたい。(本書の本文は2005年5月までをカバーしており、アブダッラー現国王即位後の状況については記載されていない。2006年6月現在は、それでもまったく問題ないが。)