現代的な固体物理の教科書
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固体物理の教科書と言えばキッテル、アシュクロフト・マーミンなどが有名であるがそれらは初版が70年代以前に書かれているため、当然のことながらそれ以降に、劇的に発展した分野の記述が不十分であったり、新しい論文を読むための基礎知識として十分とは言い難だろう。
この本は2000年に出版された教科書であり比較的新しい内容も紹介されている。もちろん固体物理の発展の速さを考えると完璧にcatch upするのは無理ではあるが、大学院生が専門分野の論文を読むためや、専門家が他分野をよく知るために使用する本として最適であると思う。
内容的には、この上巻では主に電子構造の計算法について書かれている。特に4章では現在バンド計算でも頻繁に使われるHF、DFT、LDAといった概念を知ることができるし、5章では実際に用いられる種々の計算法とその物理的意味について、6章では具体的な物質の電子構造について図を多く用いて説明している。これらはだいたい実際の論文では既知とされることである。
これらは高度な内容も含んでいるが、計算の省略も少なく落ち着いて読めば理解できると思うし、そうでない場合はそれこそキッテルやアシュクロフト・マーミンのような古典的な教科書を参照したりするのも良いだろう。また、比較的章ごとにも独立しているため時間に余裕のない実験系の大学院生にもありがたい本ではないだろうか。
新しいタイプの物性の本
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この本はどっちかと言うと、理論計算を専攻する学生向けに書かれている。言い換えれば、物性理論を直感的に掴みながら学習するのではなく、理論計算の背景にある理論を数学的に明快に説明してあると言える。そういった意味で、キッテルやアシュクロフトなどの定番的な本とは一線を隔した、新しい物性専門書であろう。タイプとしては砂川重信氏の書かれた有名な理論電磁気学と似ている(こちらの方が式の導出が丁寧だが・・・)。読んでいるうちにとにかく数学を使って、バンド計算や電子状態を徹底的に説明しようという、著者の意図が見えてくるはずである。しかし、固体物理は幅が広く、いろいろなトピックを盛り込みすぎてるせいもあり、やや式の導出が端折られている気もする。したがって初学者には読み辛い本かもしれない。しかし、内容は斬新的でエレガントな数学的手法が使われているので、名著といえるかもしれない。一読をお勧めする。