専門家から初心者まで、誰にでも分かる紛争解決と平和構築の本
★★★★★
「譲りあい、わかちあい、助け合えれば紛争は解決する」、皆、頭の中では分かっている。でも、紛争は無くならない。
タイトルで、「ワークショップで学ぶ」とは謳っているものの、後に続く「紛争解決と平和構築」という二語から連想したのは分厚い学術書だった。そもそも、崇高な目的であるとされる紛争解決と平和構築に取り組む人というのは学識経験豊かな人格者という、一方的なステレオタイプ像をこれまで持っていた。そうした“立派な”人たちを対象にした本ならば、読者層も限られる。
でも、上杉ら著者陣は沖縄平和協力センター(OPAC)で8年間積み重ねてきたワークショップでの経験を惜しみなく披露することで、紛争と平和という、とかく重く見られがちなテーマを誰にでも分かるように仕上げた。
「紛争には私たちが住む社会の問題点を明らかにしてくれる役割がある」。紛争の建設的な面の指摘には目から鱗が落ちる思いをした。問題点が明らかになれば、後はそれを解決に向け実践するだけ。その実践方法を、互いを殺し合うような本当の紛争を用いることなく学ぶというのがワークショップと理解した。
「過去に対する無力と未来に対する可能性は紛争当事者たちが最低限共有できるスタートライン」。こう諭されると、自分が忌み嫌っていた天敵とも共通基盤を探し、話し合えるような気がしてくるから不思議だ。これら最初に紹介される紛争解決のための基礎知識は家庭や会社でも活用できるものばかりだ。人生の指南書としても良い。
実践編となるワークショップはメニュー盛り沢山で実用的だ。その中で紹介される紛争地図を使い、自分の家族関係の相関図を試しに書いてみた。家族それぞれの関心が明瞭になった。
分かりやすい。読み終えた後、自分が一端の平和構築の専門家、紛争解決のプロになったような錯覚に陥るが、野球、ゴルフと同じように練習と実践が必要なことは言うまでもない。
紛争解決、平和構築という難解なコンセプトを少しでも分かりやすく、一人でも多くの人たちに伝えようとする著者陣の熱き思いが伝わる書だ。
入門書には良い本
★★★☆☆
本書は紛争解決と平和構築というものをわかりやすく丁寧に説明したものである。
1部では紛争解決、平和構築の理論を具体的な例を取り上げ説明している。引き合いに
だされる例が適切なのと、身近に感じることもあり、初心者でも難なく理解できる
と思われる。
2部、3部では主にワークショップのやり方や、様々な役割分担などについて
述べられている。これらは単に紛争解決や平和構築にだけに当てはまるものではなく、
企業や学校などで実際にワークショップを行う機会のある人にとって、非常に有意義な
示唆を与えてくれると感じた。
ただ、少し専門的に平和構築や紛争解決を学んだ人には正直もの足りない内容である。
しかし、これからこの分野の勉強を始めようとする学生には良書といえる。
ピースビルダーになるためのエッセンス
★★★★★
この本は「紛争解決」「平和構築」を大学などで学んだことのない人にも、
また、ある程度学習が進んだ人にもおススメしたい本です。
話し言葉で書かれていて非常に読みやすいです。
本書は、紛争解決や平和構築のガチガチな理論が書かれているわけでもなければ、
実際の紛争現場の生々しさをルポしたものでもありません。
また、「紛争を解決するためには××を」「平和を構築するためには○○をしろ」
というような、解決策を提示するものでもありません。
この本の全体を通して伝わってくるメッセージ、それは
「ピースビルダーに必要なエッセンス」です。
(筆者はこれを4つの能力に分けています)
このエッセンスは、平和を構築するためにどうすれば良いか、
私たちに考える(平和を想像する)ヒントを与えてくれます。
いわゆる紛争学や平和構築の教科書には、難しい専門用語がたくさん出てきます。
そのような難しい話が知りたい方は、他の教科書でも足りると思います。
ただ、他の平和構築関連の本に書かれてなく、この本を読んで私が学んだことは
「相手の立場にたって考えること」「社会の色々な人間関係の中で、信頼を築くこと」
など、特に戦闘状態にある紛争地に限らない、至ってシンプルなことでした。
著者が本書で紹介する「目からうろこ」のワークショップは、そうしたシンプルな
気付きが体感できるものだそうです。私も「受けてみたいな」と思わせる内容が紹介
されています。
ワークショップで学ぶコンセンサスの作り方〜紛争解決と平和構築の視点から〜
★★★★★
分かりやすい紛争解決、平和構築の入門書であると同時に、ワークショップの手法が具体的に紹介されているノウハウ本でもある。
全体を通して「平和構築とはどういうものか」、またその具体的な手法であるワークショップは「どういう内容でどんな気付きがあるのか」、それぞれ事例の紹介からコラムまであって、内容が非常に理解し易い。
特にワークショップの手法については、平和構築の専門家や援助関係者ならずとも、日常生活、ビジネスの世界においても使えるツールではないかと思う。例えば、組織間のトラブルは会社にはつき物だが、本書のワークショップの考え方や手法を応用して解決の道が探れるように感じ、興味深い。
また、本書は第一部で基礎的な紛争解決学、平和構築論等の基礎を知り、第二部以降では具体的にそれをどう実践すれば良いのかを事例を通じて解説している。つまり理論と実践(厳密にはその紹介だが)が連関して、一冊で両者を繋いで読み手の腑に落ちるような…そんな仕掛けとなっている印象を受ける。
上記のとおり全体として興味深い良著であったが、ただ一点、想定する読者層はどこだったのだろうかという疑問がある。
いわゆる援助関係者等専門家に留まらず、広く一般に対して紛争解決の手法を紹介するとともに、紛争解決、平和構築の実践的な入門書なのではないかという一読後の感想がある。
つまり、著者の言葉を一部借りれば本書のメッセージは、”みな、よりよい社会を創るピースビルダーたれ!”ということなのであろうが、そうであるならば本書の題名は、レビューにつけた様なものにしても良かったのではないだろうか(要は、紛争解決と平和構築という専門的な堅い話ではないということ)。
なお、細かいことだが、本書の第1部でパレスチナを題材にしたレモンランド紛争が事例のような形で挙げられている。
レモンランドは明らかにパレスチナだったが、パレスチナ→レモンランドに言葉を置き換えるだけで、妙に納得感があるのが不思議だった。
別の話のようにみせて単純化して、かつ理解や受け入れをし易くする。こういった仕掛けもピースビルダーのノウハウなのかもしれない。このようなやり方も、通常の仕事等でも使える面白いやり方なのではないかと思う。