家族の風景
★★★★★
ハイライトとウイスキーグラス(チラッと)も出てくる。出てくる場所、ほとんど全て行った事があり、とても懐かしい気分になる。
まだ40代の家族を持ったお父さんの気持ちは分からないが、読み終わった後で胸に不思議なそよ風が吹くだろう。誰もが様々な悩みや問題、内面の葛藤、日々抱えているものがあるという事。それはあたりまえの日常だということ。ただ、ほんの少し優しい気持ちになれる。
甘美な悔恨を誘う「逃走」系傑作!!!
★★★★☆
小林旭主演の映画『南国土佐を後にして』をご存知だろうか?
賭場でまさに戦っている主人公・旭は、ペギー葉山が歌う『南国土佐を後にして』を耳にして、博打の手を止め、「あの音楽をやめさせてくれ!」と言う。純粋な頃のことを、堅気の少年だった頃を思い出すのだ。それがバクチの腕を鈍らせる。
本書のテイストは、それとは似ていない。だろうか?
谷口の手法は古典的なものだ。たとえば、山田太一の『異人たちの夏』も結構としては似ている。これはある種、「反則」にも似た手法なのだ。さらに、素晴らしい「絵」、端正な人物、繊細な事物の描写。そうしたリアリズムと、14歳の夏への帰還。心は48歳だ。心が中年というところが、この「反則」手法の肝だ。評者はほとんど甘美な後ろ向きの気持ちに浸されて、小林旭のように「やめてくれ」と言いたくなる。甘美だけど悔恨が詰まった、曰く言い難い想い。
傑作だ! しかし、こういう甘美さは、現実の闘争からの逃走を企てたくなる気持ちにさせる。恐らくは、作中主人公(中年14歳)の父が、幸せな家族から逃げたように。願わくば、この父がその後「よく生きて」いることを。
本作の末尾は見事ではあるが、それは実はどうでもよいことのようにも思える。
「田舎」のぬくもり
★★★★☆
この漫画は、毎日仕事で忙しく家族を省みない中年サラリーマンが、ある日、中学時代にタイムスリップするお話です。全てを読み終えたあと、「自分もあの時ああしていれば・・・」と後悔の念が突き刺さりました。と同時に、人は「別れ」を経験して成長するのだなと感じました。古き良き「昭和」を静かに描いた心温まる一冊です。映画化を強く希望します。
ぼくらの『夢物語』を創った天才谷口ジロー
★★★★★
これは おおきな 創作者による 渾身の作品と思った。
若者には 理解困難かもしれない。年寄りには 夢と希望と哀愁をあたえてくれる作品。
かって このような 作品にはであったことはない。
この作品は 谷口ジローが 自分で構想し 創り上げた奇跡の作品である。
48歳の主人公は 突如 『時をかける少年』となる。
中学生に戻ったのだ。
しかも、48歳生きてきた経験をもっったまま。
場所は鳥取県倉吉市。この町で 彼は少年時代生きていたのだ。祖母、母、父、妹。
少年は 身体が軽くなる。走ることに苦痛なし。
クラスの 皆のあこがれのまと 賢く美しい少女と つながり、お互いを愛し合う。このあたり、おませで勇気がないとできない行動だ。周りも認めてゆく。
ぼくは この少女を愛する。これほど美しく賢い少女を見たことがない。
彼女の姿は 下巻の第5章「夏の風景」の巻頭の絵を みてほしい。
すばらしい。
さらに 個性あふれるおませな友人達。
こんなこと あの時代に この倉吉市では 実際にあったのだろうか。
=======
父は黙々と仕事をし家族のことを配慮している。その父が 失踪する!それをとめようとする少年。しかし不可能であった。
父の失踪を ゆるす 豊かな母。そして 母の死。
全てが 優しいのである。
《自分に 真剣に生き、人の生き方を 大事に大事にしている。》
こんな夢のような世界が 倉吉市にあったのだろうか。
最後のあっと驚く結末。父の姿が見える。錯覚か。
『父の暦』とくらべ この作品は ぼくたちを 仰天させ、翻弄させてくれる。 この翻弄こそ ぼくたちが望んでいたこと・夢物語。
谷口ジローは そんな世界を 仮想であろうと 具体的に創作してくれた。
この 作品をみたら 自らの 人生を 思い切り 振り返ること可能となる。
すばらしい 夢。
ありがたい。やはり 谷口ジローは天才である。
原作なしのオリジナルでは代表作の一つといえる名作
★★★★★
‘99年に上下2巻で発売されたものを1冊にまとめた作品。原作はなく著者のオリジナル作である。
都会に住む48歳の男がタイムスリップして14歳の頃に戻ってしまう。記憶はそのままである。つまり48年の人生を経験した14歳である。人生をやり直しているようなものだ。身体も軽いし、勉強、友人、全てが新鮮である。
男の父は、家庭は円満だったにもかかわらず、彼が14歳のとき、誰にも何も告げずに家を出てしまっている。彼はその理由をいまだに知らない。タイムスリップした彼は、父が家を去る時になんとか引き止めようと説得するのだが、父の気持ちが理解できたと同時に自分の気持ちにも気付いてしまった“48歳”の彼は止めることが出来ない。結局、何も変えることが出来ないまま彼は記憶を取り戻し、もとの生活に戻る。そして、ある日、家に届いた小包を開けると…。
ストーリーとしては目新しいものではないし、小説だとしたら力量がある作家でないと駄作になりそうである。しかし、これが谷口ジローの絵(人物だけではなく背景もふくめた絵である)で描かれると素晴らしい作品となる。大人のマンガである。原作なしのオリジナルとしては代表作の一つに数えられるだろう。
谷口ジローは欧米での評価が高い。この作品もヨーロッパでいくつかの賞を受賞している。詳しくはわからないのだが、ストーリーを重視する傾向にある日本の漫画に対し、欧米では絵を重視して、絵自体で何かを表現する作品が多いようだ。90年代以降の著者のオリジナル作は殆どが地味である。しかし、「絵だけで物語を表現」できる彼の評価が高いのは当然なのかもしれない。