誠実なCSR入門書
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CSR(企業の社会的責任)の解説書が矢継ぎ早に出版されているが、現場でCSRのシステムを作り実行しなければならない経営者や担当者にとっては不満足なものが多かった。「企業の社会的責任とは何か」という理屈をこねまわしているだけの本や、CSR報告書をどうしたらうまく書けるかというアンチョコを狙った本、あるいは国際舞台でのCSRの大きな動きの知識を持たないコンプライアンスの専門家が書いた「ドメスティックCSR」とでも呼ぶべき類の本ばかりだったからだ。
しかし梅田氏はCSRに関連した国際的な基準作りやモニター活動や、汚職防止のための市民活動に参加してきた立場から、平易な文章でCSRという複雑な事柄を解説することに成功している。CSRについてわからなかった頭の中のモヤモヤを一掃してくれる優れた著書である。
CSRは単に「企業の順法精神」あるいは「環境を守るための基準」というふうに解釈されていることが多い。しかし筆者は、地球規模での企業活動が直面している人権問題と南北問題に対して、どうアプローチしたらいいのかという視点でCSRを語っている。さらにさまざまな国際行動規範の限界と矛盾点にも触れており、CSRの本質をしっかりと教えてくれる。
いま、日本の企業に求められているのは、この本をテキストにして、CSRを知るための海外ツアーに出ることであろう。先進国では国際企業が人身売買やフェアトレードに真っ向から取り組んでいる現場を見ることができる。途上国では、汚職政治に苦しめられ続けている零細企業家の戦いを知ることになる。CSRの導入は、まず現実を知ってからだ。
CSRとは小手先の基準や規格を作り出すことではない。会社に浄化作用と安心できる持続能力を生み出すための真剣勝負の戦いだ。人あってこその企業という原点が、この本には正確に書かれている。