近代文学史上に残る三角関係の内実
★★★★☆
中原と小林が長谷川泰子をめぐって互いに青春の傷を負ったことは間違いない。若い私にとってはそういう三人のあり方がまぶしくて仕方がなかった。この本は泰子が二人の天才との恋を生々しく語ったものである。それを恋と呼ぶのはロマンティックに過ぎるのだけれど。考えてみれば、こんな二人と男女の関係にあった泰子こそ大変だったろう。
中原からは「ぼくの部屋に来ていてもいいよ」と言われて、共同生活をはじめ、二人で歩いていても急に「ちょっと、女郎を買いに行ってくる来るよ」と言われたりする。小林からは「一緒に住もう」と言われて、中原との仲を清算すべく同棲をはじめる。その折り、中原が泰子に忘れ物があったということで、小林の家をたずねるエピソードは、何度読んでもまざまざとその場面が浮かんでしまう。
ただし、ここに書かれたことをそのまますべて正しいと思うのは早計だ。まったく違う視点から書かれた小林の妹である高見沢潤子の著書などもある。客観的に知るためには大岡昇平や江藤淳の関連書を読む必要がある。ただ、読みやすい、こういう本によって中原や小林の文学に興味をもって、彼らの作品に実際に親しみたいという若い読者が出てくることを望みたい。