客観性が貫かれた,まれに見る良書
★★★★★
自衛隊の全体像を知るための労作です.正体がよくわからない自衛隊について複雑なカットを持つダイヤモンドにいろんな角度からまっすぐ光を当てるように全体像を明らかにしようとしている.今まで自身がふれあってきた幾人かの自衛官,基地の様子,直接聞いた隊内生活実情とのズレはほとんどなく,かなり客観的に書かれていると思う.ただ米兵と比べて自衛隊員が体力的に弱いような書き方があるのは疑問だ.確かに劣ったものもいるようだが,それが自衛隊員の平均的な姿であるはずはない.
著者はアメリカ人の大学教授だが,日本語で書いたと思われるほど,訳書特有のわかりにくさはない.一週間の体験入隊・自衛隊の隊員への直接のインタビューから,組織,広報誌,広報館,女性自衛官,旧軍との関連,米軍との関連,知識人の自衛隊論議まで,膨大な記述について全て出典を明らかにしながら自衛隊の全体像を明らかにしようとしている.
著者自身の締めくくりの言葉が村上春樹の言葉を借りて感想として淡々と述べられていることに象徴されるようにように,この本は多数の学生を含む様々な階級の自衛隊員,旧軍人,米軍,政治家,学者,作家,マスコミ等,様々な膨大な他人の視点から自衛隊を眺めている.すなわち客観的という意味ではこれほど優れている本はざらにないだろう.
一文ごとにカッコ付きの注釈がついているのは読みにくいが,これは自衛隊・それを取り巻く様々な事象について読者がもっと知りたいと思うときの,この上なく親切なガイドとなる.
自衛隊さらには軍事面からみた日本国の正体を知るための,まれに見る良書といえるのではないだろうか.