内容は、生い立ちから奉公の話、電器事業に巡り合ったきっかけ、見合いの話、創業期の話、事業を拡大した話など、まさに松下幸之助の半生をつぶさに記録している。初めて自転車を1台売った時の感激を記した小僧時代の話や、電気工事人として徹夜で工事に携わった時の話、相手の顔も満足に見ずに結婚を決めた見合いの話、ソケットの研究が思うように進まず、収入の道を断たれた話など、波乱万丈の人生がユニークなエピソードとともにつづられており、読み応えがある。
もちろん、ほかの経営者の自伝同様、経営者あるいはビジネスパーソンの心構えの書としても有用である。著者が戦後の貧しい時代に生まれ育っているため、時代背景やビジネスを取り巻く環境は今日と異なっているが、その骨太な主張から学び取れることは多い。「辛抱しているうちに、たとえそのことが成り立たなくとも、周囲の情勢が変わってきて、そこに通ずる道ができるとか、またその辛抱している姿に外部からの共鳴、援助があるとかして、最初の計画とは大いに相違しても成功の道に進み得られるものである」という、本人の体験から得られた信念や、「商売は時世時節で、損もあれば得もあると考えるところに根本の間違いがある。商売というものは不景気でもよし、好景気であればなおよし、と考えねばならぬ」という教訓は、不況にあえぎ、リスクに直面する今日の経営者にとって、大きな意味をもつのではないだろうか。(土井英司)