江戸初期外様大名がお家存続のために苦闘する中、江戸宮廷社会での生々しい人間関係の実像に迫る
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江戸時代の初期、外様大名の肥後熊本藩細川家がお家存続のために何をなしていたかが、忠興・忠利という藩主親子の行動を通して生々しく再現される。当時、手紙がお互いの意思疎通の主要な手段であって、江戸と国元に分かれて住む忠興・忠利親子が交わした膨大な書簡が残されたことが幸いした。この書簡により歴史を平板に学ぶのと違い、興味深い歴史の裏舞台が垣間見れることになった。
本書のタイトルから受ける印象と違い、内容は頗る雑誌記事のような面白さがある。いわば政治の裏舞台を暴く雑誌を読むような気安さで、将軍・幕閣・旗本・大名を取り巻く人間社会の実像、すなわち、江戸城を中心とする宮廷社会の実像に迫るものである。秀忠、家光、老中、大名など名立たる人々の個性が、歴史教科書とは違い、人間臭く描写されるのも魅力の一つである。
三斎公の晩年
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なにせ戦国きっての怪物大名、細川忠興公とその後継者となった因縁の3男坊忠利との手紙を通した物語。というかドキュメントなのですが、江戸幕府初期、江戸城内外での魑魅魍魎とした人間関係の中でさすが水泳の達人の家系であるからして、実に細やかというかあざとい腹芸の数々を披歴してくれます。目立たず、さりとて引かずという阿吽の呼吸、名家、細川ならではの手練手管です。
今の自民党政治家、次官級官僚はとても及びますまい。
それでも江戸幕府の初期ですから、まだ質実剛健の気風が残っていて、その後頽廃化した宮廷政治とは違ってまともというか、現実にそった政策が行われていたことが偲ばれます。
幕府内での高碌の譜代大名から旗本まで、人脈に沿った現実判断、その誤り、逡巡が命取り、改易につながるリスクの高さ、殿様業とは大変ハードな仕事だったようです。
また戦国大名最後の晴れ舞台であった島原の乱を具体的、詳細に記述している点が評価されます。
余談になるのでしょうが、三斎公が手紙で語る伊達政宗の破天荒なエピソードも爆笑ものでした。
細川忠興・忠利父子のお家・国を想う強い気持ち
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江戸初期・幕藩体制が整う寛永時代まで江戸城大広間は大名みずからが命運をかけてたたかう戦場でもあったことに驚きました。現代日本の政治風土をつくった江戸初期の権力抗争を九州の小倉藩主から国替えを命じられて熊本藩54万石の藩主・細川忠興・忠利父子の残した膨大な往復書簡から解読するこの歴史ノンフィクションはただ歴史の流れを解説するのではなく、御家を存続させる為に細川忠興・忠利父子がどれだけ力を尽くしたか、家臣や領民を想うその様子を鮮明に解説つきで書かれており、今の政治家から経済学者の人たちにも読んで頂きたい一冊です。物語ではなくこれは実話なのでリアリティーがあり、まさにNHK『プロジェクトX』の江戸時代バージョンのようでした。徳川家康の時代から家光、家綱の時代まで様々なことが起こっても父子で御家を守り島原の乱の時の対処まで詳しく解説されており、天下泰平の世となっても御家に災いが降りかからないように身を粉にして奔走した父子の姿に改めて感動しました。