アメリカ生まれはイスラエル特殊部隊に入れない!〜「アーロン。絶対諦めるな!」〜
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「ビヴァリーヒルズ育ちのボンボンが、軍隊に興味を持ちイスラエルの特殊部隊入隊を目指してIDFの特殊部隊選抜課程に挑戦していく様を描いた記録。その時々の著者の心情描写。軍隊生活時代の友人との関係。著者の家庭環境。イスラエルという国、アメリカという国。これからのアメリカの対テロにおけるあるべき姿、その進言。」について詳述されている。
ところが、著者は単なる大金持ちのボンボン息子ではなかった。並外れて強い精神力を有し、物事を非常に計画的に捉えることの出来る非常に賢い頭を持つ人間であった。歪んだ家庭に生まれた著者は、多くの問題行動を子供時代起こし、カナダのミリタリースクールに預けられてしまう。しかしながら、その軍隊式の学校において、あっという間に頭角を現す。この例を見れば、‘栴檀は双葉より芳し‘のように見えてしまうが必ずしもそうではないようである。
●ゴルダ(イスラエルで著者を親身に世話してくれた老女)のほうは、おそらく情報部(モサド)にいたときの豊富な経験に基づいて、もう少し深く私の深層を探ってくれた。「いい若い者がアメリカの恵まれた生活と家族を捨て、わざわざつらく危険な仕事をしにやってくるなんて、家庭にどこか問題があったに違いない」(本書P188.189より)
●ロサンゼルスにいる、家族とも呼べないショービジネス一家からは、決して得ることが出来ない非常に大切なものを、わたしはイスラエルの軍隊から得ようとしていた。〜中略〜私は他の何よりも、ドゥヴデヴァン(対テロ工作専門部隊)に受け入れられたことを誇りに思っていた。(本書P189より)
著者は自分を受け入れてくれる人や団体を心から求めていた。人間はひねくれればひねくれるほど、不遇な思いをすればするほど、物理学ではないがポテンシャルエネルギーがたまるので、その病的ともいえる起爆的エネルギーは捌け口を求めて右往左往することになる。このアーロン氏のケースでは、そのエネルギーの方向性と本人の才能とが目標達成に符合していたため、米国のSEALS入隊より厳しく見えるイスラエル特殊部隊への入隊、それからその訓練を貫徹することができた。だが結果的に見ると良き人との出会いが著者の明暗の岐路になっているように思える。
余談だが、実はアメリカ生まれの人間はイスラエルの特殊部隊にそもそも入隊できない。アメリカ生まれのアーロン氏は、勿論、特殊部隊入隊はおろかその選抜過程すら受けさせてもらえないわけだった。ところが彼は、坐りこみを続けて、上官の営倉行きという突きつけを無視してとうとう折れさせてしまう。そもそも異国の土地に来た人間が、古くからある慣例を次々と無視して自分のやりかたに変えることがそうできるだろか?
満足に喋ることも出来ず、支えになる友人も少ない孤立無援の状況でである。この本からは、強烈な意志さへあれば不可能も可能になるという一つの事例を学ぶことができる。読者の方には本書の前半部、著者がイスラエルの地を踏んでからからしたことを、注意深く読んでいただきい。著者がIDFの特殊部隊に例外的に入れた理由がわかると思う。
あるとき、一人の元イスラエル特殊部隊戦士は著者にこう語った。
「いいか、アーロン。よく覚えておくんだぞ。たとえ逃げ道を与えられようと、絶対に諦めるな。奴らにこう言ってやれ。『俺は絶対逃げはしない、ここにいるんだ』ってな」
特殊部隊のあり方を示唆する一冊。日本の部隊練度が気になる。
★★★★☆
ユダヤ系アメリカ人がイスラエルの特殊部隊に憧れ、努力と根性でイスラエルの特殊部隊に入隊し、任務をこなし、退役後に著した手記である。日本人から見ると厳しいアメリカのセキュリティでもイスラエルからみると子供レベルであるため、セキュリティ会社を立ち上げて、警察や教師に市民や子供達を守る技術を教えているそうである。
パレスチナ自治区でパレスチナ人に変装して活動するこの特殊部隊は、訓練に1年半、実戦で1年、あとはクールダウン期間となっている。あまりにも過酷すぎる任務に精神を病むからだという。実際に筆者も拳銃を撃ちながら突進してくる12歳の少年を撃ち殺したことで、規定どおりに暫くシフトから離れ、カウンセリングを受けている。
日本にも警察と自衛隊に特殊部隊はあるが、走りながらサブマシンガンで目標に3発ずつ命中させる訓練などしていない。育成に一人あたり何十万発の弾丸が必要になるか。イスラエルとパレスチナの問題はちょっと置いといて、全国民が対テロ活動に主眼を置く姿勢を垣間見た気がする。
世界最高の兵士を目指した青年の物語
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イスラエル軍特殊部隊、国の内外からの侵略やテロの脅威と常に戦いつづける
最精鋭集団に憧れた、一人のユダヤ系アメリカ人青年の挑戦の物語です。
<読んで良かった点>
・不屈の精神で、難関の特殊部隊選抜試験の受験資格を得て、関門を突破していく
青年の生き様は、難関の大学や資格試験を受験される方、社会人で大きなヤマ場
をむかえている方、さらには人生に目標を見出せない方のメンタル面での励みに
なると思います。見失いかけていた何かを思い出させてくれるかもしれません。
・人材の絶対数が少ない小国のイスラエルが、アメリカなどの大国の特殊部隊に匹
敵し、或いはそれ以上の実力を保つためには、人材活用の基本的な考え方に違い
があります。この点が同じ特殊部隊でも、全く違うのだと思いました。適材適所、
個性に応じた登用の仕方で、最高の成果をあげる。少子化の日本の組織運営のヒ
ントになるかも知れません。
・最高の精鋭部隊の兵士といえども逃れることのできない、戦争により踏み入れざ
るを得ない人間の心の負の領域に、青年はどのように決着をつけるのか。
私は不都合があると、「政府や会社は、何もしてくれない」などと直ぐ文句を
言ってしまいますが、青年の自立心の高さと生き方には、感心しました。何かを
してもらうのではなく、自分に何ができるかを考えようと思いました。
究極のノンフィクション:克明な事実の記録と心情の記録
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著者のイスラエル軍入隊経験とその後が、事実面・心情面ともに克明に記述されている。日本語で読める軍事・インテリジェンス関連の本の中では最高レベルのものの一つであるといえる。
*以下、2009年5月14日追記*
出版からある程度時間が経ったので、先述のレビューについて、さらに詳しく説明する。
以前、「事実面・心情面ともに克明に記述されている」と書いた。
まず、「事実面」については、イスラエル軍の入隊試験や部隊分け(どういう部隊があってどういう配属が為されるか)、訓練のプログラム詳細、訓練面で重視されていること、実際のオペレーションの様子、オペレーションのもたらすストレスの様子、等の貴重な情報がわかる。また、「心情面」については、1人の少年が、ハリウッドのお坊ちゃん生活から飛び出し、軍に入って成長し、部隊で戦友たちと出会い、その中の1人と相棒となり、しかしイスラエル軍でずっと働かないかというオファーは拒否してアメリカに戻り、アルバイト勤めをしては辞める生活を繰り返しているうちに、警備関係のビジネスを起こして成功し、相棒とも再会するという、男の成長物語として、かつ、生々しい自伝として読める。