本書は1995年に刊行された『京都に原爆を投下せよ』の再刊であるが、私は今頃になって初めてここに書かれている事実を知ったのである。私のようにウォーナー伝説を信じている人がいまだに多いように思えることからしても、より多くの人たちに読んで欲しい著作である。
恐るべきは、占領政策の影響です。作者によれば、アメリカ映画輸入超過も占領期間中、アメリカ映画ばかりを見せられたことに起因しているそうです。ようするに「刷り込み」ですね。
それにしても、真の学者の仕事はこういうことなのだ、とつくづく思います。
どうでもいいことですが、この本で、現在の「不幸の手紙」によく似た「幸福の手紙」というものが戦前にあったことも知りました。
ラングドン・ウォーナーこそが京都や奈良に爆弾を落とさないように米軍に進言した恩人である、と宣伝しまくったのはと言えば、美術史家の矢代幸雄ですね。それが間違っていたとなると、これまで矢代幸雄が書いてきたことを信じてきた人には悲しいことかもしれない。けれど著者の吉田氏は、当時の矢代や他の日本人には知り得なかった事実にアプローチすることで、その裏を暴いてみせる。実は、この著作が1995年に単行本で出たときのタイトル『京都に原爆を投下せよ』に見るように、吉田氏のテーマは京都が焼け残った経緯を探ることにあるようですが、それに伴って《ウォーナー伝説》の陰に隠れた米軍の戦時プロパガンダも明らかにされてゆく。戦中・戦後の文化財保護や矢代幸雄のことに興味があっても、『日本の古都はなぜ空襲を免れたか』という題名では見逃してしまうかもしれないけれど、この本は、そういう人にこそお薦めです。