残念ながら著者の他作品を未読のため比較はできませんが、ともかくもこれはすごい小説だと思います。ピンチョン作品に似て大変筋が入り組んでいてうまく要約できませんが、時代設定は主に三つ――18世紀革命期のアメリカ南部とパリ・パラレルワールド的で荒廃した20世紀末・オーウェルの『1984年』を思わせる悪夢的な未来(?)世界――この三つにおいて展開されます。これらがもうむやみに錯綜していて脈絡はちっとも通らないのですが、最後にはどういうわけか全てが見事に繋がったように読めるのです。この力技を可能にしているのが著者の圧倒的「妄想」力とそれにより描かれる凄絶な愛であります。嵐が丘』のキャサリンとヒースクリフが想起されましょう。ラストまで殆ど息つく間もなく、訳者のいう「愛と自由の二律背」が展開されまして、読み終わった時には疲労困憊するほどのビリビリした気合が感ぜられるのです。
このように作品は素晴らしいのですが、残念ながら自分はそれに及ばぬためついていけないという感じをもちました。登場人物の強烈な感情にいまいち共感しきれなかったのです。しかしお勧めであることには変わりありません。『ルビコン・ビーチ』を島田雅彦が訳していますが、エリクソンのは島田作品より遥かに痺れるのではと思います。