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Xのアーチ

価格: ¥272
カテゴリ: 単行本
ブランド: 集英社
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人はどのような経緯で本書にたどり着くのか…… ★★★★☆
 本書はそれまでのエリクソン作品を総括するもので、『彷徨う日々』の登場人物が現れたり、『黒い時計の旅』のある場面が描かれたり、果てまた『彷徨う日々』の著者(=)エリクソンが本書の中で非難され殺害されたりする。そして著者曰く、本書(『Xのアーチ』)以後、もはや作品を書けないかもしれないと語らしめたりしている著書である。
 はっきりいってこの小説だけを読んで読者は確かに楽しめるかもしれない。だが、この作品の何がしかを論ずる場合、エリクソン作品の過去の作品をまったく読まずして語るのは確実に不適切である。
 ちなみにエリクソンの『アムニジアスコープ』においても同様のことがいえる。
幻視に関してはそうそう負けない ★★★☆☆
残念ながら著者の他作品を未読のため比較はできませんが、ともかくもこれはすごい小説だと思います。ピンチョン作品に似て大変筋が入り組んでいてうまく要約できませんが、時代設定は主に三つ――18世紀革命期のアメリカ南部とパリ・パラレルワールド的で荒廃した20世紀末・オーウェルの『1984年』を思わせる悪夢的な未来(?)世界――この三つにおいて展開されます。これらがもうむやみに錯綜していて脈絡はちっとも通らないのですが、最後にはどういうわけか全てが見事に繋がったように読めるのです。この力技を可能にしているのが著者の圧倒的「妄想」力とそれにより描かれる凄絶な愛であります。嵐が丘』のキャサリンとヒースクリフが想起されましょう。ラストまで殆ど息つく間もなく、訳者のいう「愛と自由の二律背」が展開されまして、読み終わった時には疲労困憊するほどのビリビリした気合が感ぜられるのです。

このように作品は素晴らしいのですが、残念ながら自分はそれに及ばぬためついていけないという感じをもちました。登場人物の強烈な感情にいまいち共感しきれなかったのです。しかしお勧めであることには変わりありません。『ルビコン・ビーチ』を島田雅彦が訳していますが、エリクソンのは島田作品より遥かに痺れるのではと思います。