書下ろしの17詩篇と1995-2008の過去作品(随筆)のコレクションで纏めた良書
★★★★☆
主として自らの死と死に様がテーマの17編の詩は書下ろしで、大病を患った辺見さんが自著で述べて来たように死の接近(向う側とこちら側から)を内包する者にしか描けない焦燥感や倦怠感や苦悩を感じました。
癌で片手からやがて全身の機能を失った父は一言もその恐怖を家族に吐露せず、逆に家族のことを想いながら64歳で他界しましたが、この詩篇を読み父の心中が如何なるものだったか慮りました。
書下ろし以外の8割は他著で既読でしたが、随所に見られる時代の本質を見抜いていた漱石や思想家達の言葉の引用と豊富な語彙を用いて深く沈思し、社会・政治・マスコミ・大衆に対して語った言葉にはやはり他の著者にない重みと深さがありました。
ですが、世界恐慌の今という時代にあっては過去のコレクションが主体の本書より先に辺見さんの近著を読まれる事をお薦めします。
チェットベイカーとジャコメリ
★★★★★
タイトルのとおり、最近の著作を中心に辺見庸の美意識と社会がつづられている。
チェット=ベイカーのトランペットも、ジャコメリの写真も、資本や生体とのかかわりの中でその意味が語られている。現在の破局において存在感を持つ「美」について語られている文章は同時に、社会の破局状態との関係で意味を持ちえない芸術や文化への強い批判を帯びているように思える。
掲載誌の廃刊により、中止となった連載「潜思録」のほか、書き下ろしの詩が収録されており、そのほか、これまでの論考がテーマごとにまとめられている。
基本的にコレクションであり、過去の文章をまとめたものであるが、テーマを定めて時系列に辺見庸の思索の軌跡を辿るのはこの20年の時間を深く振り返る機会になると思える。